エレベーター | shingo722のブログ

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 「エレベーター」
 
 エレベーターは静かに上昇を続けていた。僕は休日を利用して百貨店に洗濯カゴを買いに来たのだ。いや、洗濯カゴというのは正確な言い方じゃ無いかも知れないな。風呂に入る前に、用意した着替えを一旦入れておくカゴが欲しかったのだ。しかしいざ百貨店に来てみるとなかなか僕の用途にピッタリと来るカゴは無かった。いくつかの売り場を回った挙げ句、最上階のフロアに向かうことにした。そこに無ければ今日は諦めるしかない。そもそも着替えを入れておくカゴが絶対に必要というわけでも無いのだ。
 僕はエレベーターに乗ると必ず考えることがある。今この瞬間に僕の乗っているエレベーターが故障か何かで停止したら、ということである。僕が1人で閉じ込められる分には構わない。気長に助けを待つだけだ。だがもしそこに、他の誰かが一緒に閉じ込められた場合、これは相当に気まずいことになる。元来僕は人見知りである上に、全くの見ず知らずの誰かと一緒に、助けが来るまでの数十分を過ごすことを考えると僕の気は滅入った。特に相手が絶世の美女であった場合、僕は幸運だったとは思わない。ただただ気後れして余計に気まずい思いを味わうだけだ…。
「ごめんなさい」
 彼女は言った。
「え?」
「こんなことに巻き込んでしまって。追われているの」
「追われている?」
「行き先の階にヤツらが先回りしているという連絡が入ったから、エレベーターを停めさせて貰ったわ」
「停めたって一体…」
「一緒に来て」
「え?僕が?」
「一度巻き込んでしまった以上最後まで責任は取るわ。あなたは私が絶対に守り抜く。だから私のそばを離れないで欲しいの」
「わかりました。でも僕なんか足手まといに…」
「さぁ、天井から脱出するわよ」
 言うが早いか、彼女はスルスルと身軽にエレベーターの天井までよじ登った。
「ちょっと待って、パンツが見えちゃう…」
「あの」
「え?」
 僕は我に返った。
「降りるんですか?」
 開いたエレベーターの扉の前に立ち尽くす僕を、買い物客の中年女性が睨みつけている。
「ごめんなさい、降ります」
 僕はスゴスゴとエレベーターを降りると目当てのカゴを探しに行くことにした。妄想に夢中になり過ぎるのも僕の悪い癖である。