「入れ墨」
「これ以上は立ち入らない方がいい」
その入れ墨の男は言った。
「これは最後通牒だ。彼女のことにはこれ以上立ち入るな」
その男は顔の左側から禿げ上がった頭頂部にかけて、物々しい入れ墨が刻まれていた。それはどこか宗教的な印象を与える模様だった。
「彼女は今どこにいるんですか?」
僕は相手の通告を無視して言った。
「私にも一度依頼を引き受けた以上、最後まで責任を持って彼女の行方を捜す義務がある」
彼は黙って右手をテーブルの上に置いた。彼の右手には小指が根元から無かった。
「この世界は信頼によって成り立っている。“信頼と実績”ってね。信頼が実績を作り、実績がまた信頼を作る。逆もまた然りだ。俺は昔一度だけ信頼を破り右手の小指を失った。そしてこの入れ墨を得た。後にも先にも失敗はその一度きりだ。いいか、優秀な木こりの傷は一つだ。そこから全てを学ぶ」
そこまで男は長々と喋ると、黙って僕の顔を見た。
「何度も言うように私には彼女を捜す義務がある。何を言われようとここで引くわけにはいかない」
男はしばらく僕の顔を眺めたあと、黙って椅子から立ち上がった。
「来るといい。表に車を待たせてある」
僕も黙って立ち上がると、彼の言葉に従う意志を示した。
「ここから先はもう二度と引き返せなくなる。君が勝つか、私の通告を無視した報いを受けるか、楽しみにするとしよう」
僕は彼について部屋を出るとドアを閉めた。ドアはガチャンという厳かな音を立ててしまった。そして僕は、依頼人の娘であるまだ実際に見たこともない少女のために、命を懸ける覚悟を決めた。