「仮面の生活」
仮面の生活にもずいぶん慣れてきた。最初のうちこそ息苦しく、道を歩いているときなどに外しているとお巡りさんに注意されたり、周りから白い目で見られたりしたが、今ではむしろ表情を隠せることに安心感を覚えるようになっていた。
友人や大人との会話でも相手の顔色を気にすることなく学校生活を送ることが出来る、そう思っていたのが大きな落とし穴であった。相手の顔色が分からないということは、相手の僅かな声色の変化、仕草などで感情を読み取らなければならない。心理戦の繰り返しのような毎日にほとほと疲れるようになってしまった。
「私はそんなに気にすることないと思うな」
彼女は言った。
「もちろんある程度人の気持ちを考えることは大事だけれど、自分は自分なんだし、意見や主張があるならはっきり言うべきよ」
僕は同じ14歳ながらこれほどまでにしっかりとした自分というものを持っている彼女に感心した。
「君の素顔が見たいな」
放課後の2人だけの教室で僕はそう言ってみた。
「いいわよ」
彼女はそう言って仮面の紐を解いた。そして僕は息を呑んだ。
彼女の頬には大きな火傷の跡があった。
「小さな頃にポットのお湯をかぶったの。事故のようなものだったらしいわ」
彼女は少し遠い目をして言った。
「私は今の生活は嫌いじゃないわよ。仮面のお陰で無用な視線や偏見に晒されることも無いしね」
僕は素直に、彼女の素顔を美しいと思った。彼女の真っ直ぐな瞳と僕らの年代にしてはあまりに多くのものをくぐり抜けて来たであろうその表情、その火傷の跡さえも僕には美しく感じられた。
西日の差し込む教室で、僕らは初めて口づけを交わした。校庭では部活動に励む生徒たちの声が、遠く響いていた。