「遠くの景色」
遠くの景色を眺めるのが好きだった。それは幼い頃から変わらないようで、クラスでの僕のあだ名は「ぼーちゃん」だった。いつも遠くをぼーっと眺めているのが由来である。だから僕が“野鳥の会”に入ったのも自然なことなのかも知れなかった。そうすればいつも遠くの鳥たちと景色を眺めていられる。
そうして僕は月に1回か2回その会に参加しては鳥の数を勘定したり、森で見かけた珍しい鳥の生態についての研究を、みんなで発表し合ったりした。
「昔から鳥が好きだったの?」
「いや、別に鳥は好きじゃないよ」
僕は答えた。
「ただ遠くの景色を眺めるのが好きなだけさ」
「ふうん」
彼女は珍しい鳥でも見るような目で僕の顔を見ていた。この鳥は一体どのような生態をしているのだろうといった感じで。
「あなたって変わってるのね」
「よく言われるよ」
「別に悪い意味じゃないのよ。他の人と違うところがあるって素敵なことじゃない」
彼女もやはりその野鳥の会に参加していて、ほぼ皆勤賞と言ってよかった。僕は彼女の好奇心旺盛な瞳と遠慮の無い物言いが(悪い意味じゃない)好きだった。要するにその素直さが僕にとっての彼女の魅力だったワケだ。
「私も遠くの景色って好きよ。だって遠くにある時の方が綺麗に見えることもあるし、ワクワクするでしょう。そばに寄ってみたら、なんだこんなものかって思うようなことでも」
「そうかも知れない」
「ねぇ、渡り鳥って素敵だと思わない?私もどこか遠くに向かってずっと飛び続けてみたいわ。まるで決して届くことの無い何かに向かって、ずっと手を伸ばし続けてるみたいに」
僕は彼女の方を見た。彼女が今いる場所はどうなのだろう?僕が懸命に手を伸ばし続ければ、届くところにいるのだろうか?