「盛夏」
打ち水を撒かれた敷石から蒸気が蜃気楼のように立ちのぼっていた。僕は夏の暑い盛りに京都まで出張に来ていた。そこで色々な景色を見ていると、僕は自分が大学生の頃を思い出した。19歳、人生の夏を迎えようとしていた。
当時、付き合っていた女の子は京都の出身で、夏休みに彼女の地元を案内してもらったりした。料亭の前で女将さんが水を撒く光景や、狭い路地、石段、日陰で涼む猫など、夏の京都の景色を今でも覚えている。僕たちはまだ若く、これから来る人生の盛りをまさに謳歌しようとしていた。
結局、僕が就職で東京に行くことになり彼女との関係は自然消滅してしまった。それでも30歳を過ぎた今、こうして京都の街をぶらぶらと歩いてみて僕は彼女のことを懐かしく思い出した。鳴り響く蝉の声と共に、僕の人生も夏の盛りを迎えようとしていた。