「渇き」
強烈な喉の渇きで目が覚めた。時計を見ると深夜2時を少し回ったところだった。ふらふらとキッチンまで降りていき、水道の蛇口をひねってグラスに2杯ほど水を飲んだ。しかし相変わらず酷い渇きは続いていた。いつからだろう、時折喉を焼く様な渇きに苛まれる様になったのは。
同期入社のその男が先に課長に昇進したとき、私は多少の焦りを感じたものの、そんなものかとあまり気には留めなかった。しかし、やがて周りの目が私を憐れんでいる様に(もしくは蔑んでいる様に)感じ始めた。あるいはそれは私の思い過ごしなのかも知れない。しかし、周りのちょっとした言動、仕草に、酷く意味深なものを感じてしまう自分を発見することになった。それからだった。私がたまらない渇きで夜中に目を覚ます様になったのは。酒を飲んで朝まで寝てしまおうとも考えたが、結果は同じだった。決まって夜中2時過ぎに目を覚ましてキッチンの蛇口にしがみつくことになるのだった。
その日私はあまりに多くの水を飲みすぎたのだろう、ベッドに戻る前に洗面所で嘔吐した。荒い息を吐きながら目の前の鏡を見ると、そこには目に暗い光を宿した頬のこけた男がこちらを睨んでいた。この感情は私をどこに連れて行くのだろう?真夜中の洗面所で鏡の中の自分と睨み合いながら、私は出口の無い自問自答を繰り返していた。