「眠気」
式は滞りなく進んで行った。式の盛り上がりと共に僕の眠気もまさにピークを迎えようとしていた。
「ちょっと、起きといてよ、今一番感動するところなんだから」
「うむ…」
そんなことを言われても、妻の友人の結婚式ほど退屈なものなどこの世に存在しないと言っていいと思う。眠気は地上に開いた巨大な穴のように僕を飲み込もうとしていた。
「それでは皆様、シャッターチャンスでございます。どうぞ前の方まで…」
新郎新婦がケーキ入刀を行おうとしたそのとき、
「ガシャンッ」
音を立てて僕は自分のナイフを皿の上に落っことした。
「失礼」
僕が愛想笑いを浮かべつつウェイターに皿を片付けて貰っているあいだ、妻は鬼の様な顔で僕のことを睨みつけていた。
「あと少しなんだから我慢してよ」
「分かってるんたけどさ…」
僕の意識はふらふらと眠りの森の中をさまよい歩き、やがてその巨大な穴の奥底へとなすすべなく飲み込まれていった。