「路地」
「ねぇねぇ、お兄さん、遊ばない?」
夜中の街を路地を抜けるようにして歩いているところで声を掛けられた。見るとどう考えても16は越えない少女である。やれやれ、何だってまたこんな年端も行かない娘がこういった仕事をしなければならないのだろう。
「いや、遠慮しとくよ。先を急ぐんでね」
「ねぇ、お願い、安くしとくからさ」
少女は懇願するような目で僕を見ながらそう言った。よく見ると、着ているものは派手でこそあったがずいぶん着古したものらしく、所々色が褪せたり糸がほつれたりしていた。
「分かった、金は払おう。正規の値段をね。ただし、宿へは行かない。代わりに僕の話を聞いて欲しいんだ」
少女はキョトンとした顔をしている。
「僕はもういい歳だ。君に近い年齢の娘がいる。でも最近娘の僕を見る目が変わって来た。欲しいものは何でも買い与えているし、やりたいことは大体何でもさせてやる。家になかなか帰れない代わりのつもりだ。昔はよく懐いたものなのにね」
「寂しいからでしょう」
少女はポツリと言った。
「お父さんになかなか会えない気持ちはよく分かるわ。私のお父さんは早くに死んじゃったから。今のお父さんは別のお父さんなの」
半袖のシャツの下からチラリとアザが見えた。僕はやり切れなくなって目を逸らした。
「ありがとう」
僕はそう言って財布からあるだけの札を取り出した。
「そんなには受け取れないわ」
「いや、お陰で少し娘の気持ちが分かった気がするよ」
僕は無理やり少女に札を握らせると、暗い路地を足早に抜けて行った。