「翌朝」
朝、彼女はむっくりとベッドから起き上がると、気だるそうに辺りに散らばった下着やら服やらを拾い集めて身に付ける。それを僕は黙ってベッドから見ている。
キッチンでトーストとサラダとコーヒーだけの簡単な朝食を食べる。テーブルを挟んで向かい合った2人はほとんど何も喋らない。昨夜の情事がまるで嘘だったみたいに。
でも僕らの中には確かにその疼きのようなものが残っている。背徳感と快感がせめぎ合って最後にはどろりと溶け合うあの感覚が。少なくとも僕の方には。
いつも出社するとき、時間をズラせるために僕が先に出ることにしている。
「じゃあ後で」
「ええ」
その瞬間、目が合った彼女の瞳の奥に、凝縮された昨夜の炎の記憶を見た。共に夜を越えた男女に通じる暗号のようなものを。その秘密めいた目配せだけで僕の心は充分に満たされた。
会社で会っても目も合わせない僕らの関係は続いて行くだろう。きっとこれからも。