「ペシミスト」
好事魔多しという言葉を昔から頑なに信じて来た。ある晴れた日の午後に鼻歌混じりに散歩していると犬のフンを踏んでしまうとかそういったことだ。
だから彼女のような美しい女性に告白されたとき、まず私はドッキリを疑った。クラスを牛耳るグループの奴らが私を騙して嘲笑っているのだと思い、最初のウチ私はそれを断り続けた。しかしあまりに何度も言われるので渋々了承したが、油断はしなかった。有頂天になってはいけないと自分に言い聞かせた。
結婚して子供まで産まれたところを見るとどうもドッキリでは無かったようだが、まだ油断は出来ない。こんな美しい妻と玉のような子供を授かったからには何か大きな落とし穴が待ち構えているかも知れない。私は仕事が休みの日にはボランティア活動などの地域の取り組みに積極的に参加し、徳を積むことにした。すると周りからの評判が高まって、道を歩いていると皆から挨拶されるようになったが、その人たちもいつ手のひらを返すか分からない。私はなるべく自分に非を作らないよう礼儀などにも細心の注意を払った。
学生の時から予断なく勉強に励んでいたため、一流企業と呼ばれるところに就職していた私は、年を取って可愛い孫たちに囲まれながら、裕福で何不自由ない暮らしが出来ていたが、まだ油断はしなかった。こんな幸せは私には勿体ない。何かしっぺ返しが来るはずだ。
そして今、私はベッドの上で寿命を全うしようとしている。親族や地域の人、私が会長を務めていた会社の人間たちが大勢詰め掛けて涙に暮れている。こんな盛大な見送りは私には過ぎたものだ。私にそんな人徳などあるはずがない。このまま地獄に堕ちて、今までの幸福な人生のツケを払わされることになるかも知れない。私は何やら眩い光に包まれて、後光の差す人々に手招きされているが、まだ油断は出来ないしな…。