「門番」
遠い遠い昔、中国のあるところに城壁に囲まれた街がありました。その城壁の門の前には2人の門番が立っており、滅多なことではよそ者をその門の中に入れたりはしませんでした。
ある日のこと、1人の老婆がトボトボと門のところまで歩いて来ました。さっそく2人の門番は老婆に訊きました。
「何の用があってこの門の中に入ろうとするのか」
すると老婆はヨボヨボと2人の門番を見上げて答えました。
「この街の中にいる息子に会いに来たのです」
「貴様は何ゆえその息子に会おうとするのか」
「たった1人の息子が腹を空かせていては可哀想なので、食べ物を持ってきたのです」
そう言って老婆は粗末な袋の中から粟をすくって2人の門番に見せました。
「わざわざ持って来た食べ物が粟とは、どうせ息子もうだつの上がらぬ暮らしをしておるのだろう」
「そんなことはございません」
老婆は必死に首を振って答えます。
「息子は戦で立派に武功を上げたと聞いております。私には過ぎた息子なのです」
「ほう」
門番たちは少し興味をそそられた様でした。
「それほどの武功をあげた兵士ならば、さぞかし出世しているのであろうな」
「それがもう、息子はこの世のものでは無いのです」
老婆は悲しそうにポツリと言いました。
「貧しい暮らしをしている私たちを見かねた息子は、武功を上げて出世して家族や村の人を楽にしてやるとこの街にやって来たのです。しかし、武功は上げたものの戦場で命を落としてしまった。心優しい息子があの世で腹を空かせては可哀想だから、僅かばかりの粟をかき集めて、この街にある息子の墓に供えに来たのです。息子はこの街の中にいるのです。どうか私を通してやって下さい」
ずいぶん遠くの村からやって来たのでしょう、老婆の裸足は傷だらけで日々の過酷な暮らしの為に手もボロボロでした。
「よそ者を通すわけにはいかない」
そう答えた門番は泣いていました。泣きながらも必死に胸を張ってそう答えました。
「私にはよそ者の姿など見えない」
するともう1人の門番がやはり泣きながらそう言いました。
「戦に目が眩んで人々の暮らしが見えない王と同じように、私の目にも息子を失い悲しみにくれながらも、食うものも食わず息子の墓に粟を供えにきた母親の姿など見えていない」
遠い遠い昔のある日、城壁に囲まれたその街の門の前には、2人の門番が立っていました。そしてその日の記録にも、よそ者が門を通ることは無かったと記されました。