「たった1日の出来事が」
朝目が覚めたとき、僕は全ての状況が一変していることに気が付いた。世界の成り立ちや、自分自身の構造がドラスティックな変貌を遂げている様だった。
初めて恋に落ちたとき、僕はまだ中学生だった。大きな学生服に身を包み、恐々と周りを見回していた僕にとって、それは世界の色を丸ごと塗り替えてしまう様な出来事だった。自分の存在に意味を持たせてくれたと言うべきか、そのとき僕ははっきりと自分が生まれてきた理由が分かった気がした。
それにしても、まさか大人になってからまた同じ様な経験をするなんてな。僕は思った。彼女はそれなりに美しくはあったが、どちらかと言えばあまり目立たない様な顔立ちで、僕が今までに何人か付き合ってきた女性と比べても、それほど魅力的な容貌とは言えなかった。それでも僕は中学生のときに経験した、雷にでも打たれた様なあの理不尽なまでの胸の高鳴りを感じることになった。彼女は僕より5歳年上で、さらに言えば人妻だった。
「2人だけでお話がしたいの」
彼女にそう言われたとき、僕はどうしてもその言葉に抗うことが出来なかった。
大人になってからの恋はあの時と同じように、しかしより複雑で入り組んだ奇妙な場所へと僕を連れ去っていった。