「時間」 | shingo722のブログ

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 「時間」
 
 この星に到着してから3ヶ月が経とうとしていた。この星では時間がとてもゆっくりと流れる。だから人々はとてもゆっくりと歳を取るし、ほとんど無限に近い時の中を生きている。そして僕はこの星で恋に落ちた。
「君と結婚したい、今すぐに」
「どうしてそんなに焦るの?この星では時間はほとんど無限にあるのに」
「君は今までそうやって生きてきたのかも知れない。でも僕は有限の時の中でしか生きて来なかったんだ」
 彼女は自分の歳すら覚えていなかった。
「あなたももっと長い間この星で暮らすようになれば、徐々に身体がそうなって行くわ」
「そうなってからでは遅いんだ。人は時間に限りがあるからこそ今この瞬間を生きることが出来る。その中でこそ美しく輝く命があるんだ」
「私もあなたと一緒にその星に行ってみたい。あなたの故郷であるその星に」
 彼女は静かに言った。
「駄目だ。君はきっと耐えることが出来ない。これまで何万年生きて来て、これからもほとんど無限に生きていく中でゆっくりと変化していくことが、僕の星では数十年、下手をすれば数年、あるいはもっと短い時間で急激に変わるんだ。その中で人は歳を取り、次の世代に命を繋ぐ。そのドラマチックな変化に君はおそらく耐えることが出来ない」
「お別れね」
 彼女は寂しそうに言った。しかし、僕と出逢い別れるこの出来事も、彼女の長い長い人生の中ではほんの一瞬の出来事に過ぎないのだ。
 僕は自分の星に帰る宇宙船の中で、この膨大な質量を持った、百数十億年の時を生きている大宇宙のことを思った。それこそ天文学的な大きさを持つ宇宙の片隅の片隅の片隅で、僅かな時を生き死んでいく人間という生命体は、その目にどう映るのだろう?それでも我々は限られた時の中を懸命に生き、死に際に信じられないほどの光と熱を発する星のように、宇宙空間に激しくその存在を刻みつける。