「昆虫」
簡潔に言ってしまえば僕は35歳になる。特に人に秀でたところは無い。とてもシンプルだ。そこにあえて1つ付け加えるなら、虫がとてもとても苦手である。おそらく幼少期のトラウマか前世からの因縁であろう。
だからそんな僕が無類の昆虫好きである彼女と結婚することになるとは夢にも思わなかった。案の定、結婚生活は阿鼻叫喚の嵐であった。足元をコオロギが這い回る、頭の上をバッタが跳び回る、そして布団の中にまで…ああ。
「ねぇ、ひょっとしてだけど、アレも平気なの?あの、Gで始まる…」
「もちろん」
彼女はケロリと言った。
「あなたさえよければウチでも飼いたいぐらい…」
「それだけは絶対にダメ‼︎」
これだけの昆虫責めに遭いながら、僕の結婚生活はさぞ地獄かと言うと、簡潔に言ってとてもとても幸せである。たとえ趣味という点で決定的に食い違っていてもである。
思うに結婚相手の条件というのは、その条件にピッタリの相手を見つけることよりは、そんな条件を全部無視できるような相手を見つけることの方が大事なのではないだろうか?