内見 | shingo722のブログ

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 「内見」
 
 「こちらがキッチンとなっております」
 その若い男はハキハキと、しかしどことなく落ち着きの無い声で言った。
「調理場も割と広いのでお料理なんかもし易いかなぁと思いますけども」
「なるほど」
 僕は応えながら、彼がなるべく目をやるまいとしている方を見た。
「あの壁の隅の染みは?」
「あー、まぁそんなに気にならないかなぁとは思いますけども…」
「何だか人の顔みたいに見えるんだけど」
「あちらがメインのお部屋ですね」
 男はさっさと次の部屋へと僕を案内した。
「このお家賃でこの広さというのはなかなか無いと思いますけどね」
「あの額は?」
「お部屋に合わせたコーディネートとなっておりますので、ぜひ飾っておいてください」
「ちょっとどかしてみてもいいですか?」
「ちょっとお時間の方が迫ってまして、他にも内見に行かれるお部屋ありますので…」
 そこで僕のいたずら心がムクムクと頭をもたげて来るのを感じた。
「なんだかフダみたいなのが覗いてるけど」
 僕は額の方を指差して言ってみた。
「え⁉︎」
「ごめんなさい、見間違いでした」
「さぁ、もう行きましょう。日も暮れて来ますから…」
 まだ昼の1時だったが、彼があまりにも慌てて言うので、気の毒なことをしたなと思い僕は黙って彼について行った。
 玄関を出るとき、隅でうずくまっている少年に手を振ると、彼も手を振り返してくれた。もう2度と会う事も無いだろう。僕が見える人だということは、結局その不動産屋には黙っておくことにした。