「親友の死」
親友の死から1年が経ち、彼の死に慣れつつある自分に驚いた。今まで週末になると決まって2人で遠出したり単発のアルバイトに行ったりしていたのだ。それが今では図書館で勉強したり、部屋でテレビを見て過ごしたり、1人で過ごすことが多くなった。その状況に慣れつつある自分に驚きつつ、また歯痒くもあった。それ以外の週末を僕は彼女とのデートにあてた。
「ねぇ、もっと知りたいわ。あなたの死んでしまった親友の人の話」
彼女は身を乗り出すようにして言った。そうすると彼女の好奇心旺盛な目がキョロキョロと動いた。
「もちろん、あなたが言いたくないのなら話は別だけれど」
「いや、そういうわけじゃ無いんだ」
僕は言った。
「ヤツとの思い出は山ほどある。それこそ掃いて捨てるほどね。でもアイツのことを話そうとすれば話そうとするほど、アイツ自身の本質から離れて行くような気がするんだ」
僕はそこで言葉を切った。
「僕の言ってることは分かるかな?」
「分かるような気がする」
彼女は言った。
「ねぇ、あなた気付いてる?その人の話をするときのあなた、すごく生き生きとしているわよ」
「そう?」
「私と居るのは退屈?」
「そうじゃないんだ。ただ、今の状況に上手く馴染めていないだけなんだ」
「少しずつでいいの。あなたがこれまでどんな人生を過ごして来たのかを知りたいの。どんなことがあって、どんな人と出会って今のあなたがあるのかを知りたいの」
彼女は僕の目を見てそう言った。
「少しずつでいいのよ」
僕はコーヒーを一口飲むと目を閉じた。そして自分が今まで生きてきた人生を振り返ろうとした。しかし細部を思い出そうとすればするほど全体がぼやけ、意識を集中することが出来なくなった。
「少しずつでいいのよ」
彼女の声が頭の奥でぼんやりと響いていた。まるで意識の糸を優しく解きほぐすかのように。