匂い | shingo722のブログ

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 「匂い」
 
 その匂いは僅かに、しかし確実に存在した。彼女が出て行ってしまったあとの部屋は必要以上にガランとしているように見えた。彼女が持っていってしまった荷物はそこにあったときよりも、その不在によってより存在感を増しているようだった。
 最初にそれを感じたのはキッチンで一人で食事をしているときだった。彼女の香水の匂いがした。僕は一瞬、彼女がテーブルの向かいに座っていると錯覚したぐらいだ。
 4年間もこの家で暮らしていたわけだし、彼女の匂いが染み付いていても無理はないか。最初はそう思っていた。しかし、1週間経っても1ヶ月経っても、その匂いは消えなかった。僕の鼻に問題があるのかも知れない。そう思ったのだが、家の外でその匂いを感じることは全く無かった。
 不思議なことに、彼女が出て行ってから日が経つにつれて、より彼女の香りは強くなっていった。今では家中どこに居ても彼女の強い香りが僕の鼻と神経を刺した。
 むせ返るような彼女の香りに包まれながら僕はたまらなく孤独だった。