「葛藤」
繰り返される葛藤は僕をより根源的な次元へと連れて行った。自分はなぜここに居るのか?自分はなぜ生まれて来たのか?禅問答のような問いにまで行き着いたとき、僕は我に返った。僕は今、夕方のスーパーに居る。自分はなぜここに居るのか?夕飯にする弁当を買いに来たからだ。自分はなぜ生まれて来たのか?それはまだ分からない。
僕を深い葛藤へと導いたのは298円の白身魚弁当と450円の幕の内弁当である。安さを取るなら白身魚弁当、量と質を取るなら幕の内弁当である。しかし、白身魚弁当を選んだ場合、晩酌は発泡酒からビールへと格上げされる。さらに白身魚のフライは僕の好物でもある。でも一人暮らしの栄養バランスを考えるなら幕の内弁当と糖質オフの発泡酒を選ぶべきでは無いか…。
僕の中で古代ギリシャの法廷よろしくソクラテスやプラトン、果てはアリストテレスまで交えた議論が繰り広げられている最中、スーパーの店員さんの手が幕の内弁当に伸びたかと思うと、なんとそこには半額のシールが貼られたではないか!
背中を押された気がした。今日の夕飯は幕の内弁当とビールに決まりである。僕が万感の想いを込めた判決を下し、幕の内弁当を手に取ろうとしたその時、横から一人の主婦の手が伸び、次の瞬間幕の内弁当は彼女の買い物カゴに収まっていた。
いくらこの葛藤に費やした10数分を惜しもうとも時間は不可逆である。僕は大人しく白身魚弁当と発泡酒を買い、すっかり暗くなった外に出た。まぁ、これはこれで美味しいからいいんだけどね。