剃刀 | shingo722のブログ

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 「剃刀」
 
 湯を張った浴槽の前で剃刀を手に僕が考えたことは意外にも、これで学校へ行かなくて済むんだとかもういじめられることはないんだとかそんなことではなく、明日から犬の餌は誰がやるんだろうということだった。
 剃刀の刃は鋭い光を放ちどこまでも鋭敏だったが、そこにはどこか中立的なものが感じられた。結局は僕の意志ひとつなのだ。そして今命を絶つことは薄氷を踏んで割るより簡単なことのように思えた。
 僅かに手首に歯を当ててほんの少し力を入れただけで血が滲んできた。しかし不思議なくらい僕の心は動かなかった。ただ剃刀の無感動な光だけがそこにはあった。
 外で犬の鳴き声がして隣の家の晩御飯の匂いがした。浴室の外には日常があった。手首の傷は浅く、すぐに塞がるだろう。僕は部屋に戻り引き出しを開けると、剃刀と今日の出来事をそっと中に仕舞った。