「コレクション」
僕の感じる違和感はますます大きくなっていた。
「こちらの彫像は中世ヨーロッパのもので、当時主流だった○○様式で造られていましてな、美術的な価値はもちろん骨董品としての価値も相当なものがあるそうで…」
自身で買い揃えたという屋敷の庭の調度品に対する主人の解説は流暢で澱みが無かったが、そこには決定的な何かが欠けているような気がした。彼の品物に対する知識は申し分なかったが、そこにはコレクターとして何か致命的なものがある気がした。
「この屋敷自体の建築も、ロココやバロックといったあらゆる建築様式を取り入れ、調和させたものとなっております」
彼は誇らしげに屋敷の外観を見渡すと、私を屋敷の中へと招き入れた。
「さて、一階から順に案内していきますかな…」
僕は屋敷の主人が自慢げに語るのを話半分に聞きながら、屋敷を隈なく案内してもらうことになった。途中、奥まったところにある一室の開け放たれたドアの外から、中に佇む婦人が見えた。ハッとするような、とても美しい女性だった。まるで西洋の絵画から抜けて出して来たような、どこか現実離れした美しさだった。そして事実、中世ヨーロッパの貴婦人が着る様な衣装で着飾っていた。しかし、確かに非常に美しくはあるのだが、その表情や仕草には生き生きとした生命感のようなものが感じられなかった。
「あれはうちの家内です」
主人がまたも得意げに言った。
「また食事の席で改めて紹介しますがな、学生時代にはミス○○にも輝いた程の気量良しでな、今では私が選りすぐった衣装と装身具で着飾らせております」
彼女は私を見るとうやうやしく、しかし正気のない表情のまま頭を下げた。
昼食の席で、僕は主人が席を外した隙にそれとなく彼女に声を掛けた。
「ずいぶんこだわり抜かれた品々に囲まれた暮らしですね」
「…ええ」
「あなたはその、何というか、こういった品々はお好きなんですか?ご主人が熱心に集められた骨董品やら、衣装やらは」
僕は思い切ってそう尋ねてみた。
「私は…」
「気を悪くされたらごめんなさい。ただ、あなたはどことなく、今の暮らしに馴染み切れていないような気がしたので…」
「オホン」
執事が軽く咳払いしたので話はそれまでとなった。でも僕は彼女が一瞬、救いを求める様な目をしたのを見逃さなかった。
屋敷を後にしながら僕は、主人が自身のコレクションに対して持ち合わせていない決定的な何かについて思いを巡らせていた。もちろん、人に知識をひけらかしたり、その骨董的価値を誇りに思ったりする事が全て悪いとは言わない。それもまた人が何かをコレクションする原動力となるものだ。しかし何よりも大切なことは、人は自身のコレクションに対して、何ものにも代え難い、深い愛情を抱いていなければならないということだ。それは金銭では計り知れないものだ。彼が自分の妻をコレクションと同一視しているとまでは言わないが、彼女の人形の様に生気のない表情と、最後に僕に見せた訴えかける様な目は、いつまでも僕の頭の中に残り続けた。