守護霊 | shingo722のブログ

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 「守護霊」
 
 「あなた、霊って信じる?」
「霊?」
 僕は彼女を見た。しかし彼女は霊感商法やら占いやらで何かを売り付けるような、いかがわしいことをするようには見えなかった。
「どうかな。あまり気にしたことはないけれど」
「私もね、特に霊感があるとかいうわけではないの」
 彼女はバーのカウンター越しに、ウイスキーやらブランデーの瓶を見るともなく見ながら言った。
「でもね、私が唯一信じるというか、そこにあると感じているものがあるの」
 彼女はそこで少し間を置いた。
「それはね、私の父親の霊なの。いわゆる守護霊というやつね」
「お父さんは亡くなったの?」
「交通事故でね。二人で交差点を渡っているところに信号無視の車が突っ込んで来たの」
「君も一緒だったの?」
「ええ。父は私を庇うように抱きかかえたままはねられて、即死だったわ」
「君の怪我は?」
「奇跡的に軽いもので済んだわ。余程しっかり抱きかかえてくれていたのね」
「それで君がお父さんの守護霊を感じるのは何か理由があるの?」
「私は人生で二回交通事故に遭っているの。一回目はその父と一緒だったとき。もう一回は大人になってから、自分の運転する車で道路の中央分離帯に突っ込んだの」
 彼女は相変わらずぼんやりとした目のまま言った。
「前の日の仕事が遅くなってほとんど寝ていなかったの。気が付いたときには自分の車がスピンしたあと横転して上下逆さになっていたわ」
「よく生きてられたね」
 僕が驚いてそう言うと、彼女は微笑んだ。そのとき僕は、彼女の目の脇にある小さな傷のことに思い当たった。
「そうよ、これはそのときの傷なの」
 彼女は僕の考えを察して言った。
「不思議なことにね、父も同じところに傷があったの」
「お父さんも?」
「ええ、父の傷は小さい頃遊んでいて出来たものらしいんだけれど、私の傷とまったく同じところにあったわ」
 彼女はそこで自分の腕時計を見た。
「ごめんなさいね、遅くまで付き合ってもらって」
「なかなか興味深い話が聞けて良かったよ」
「今日はどうしても誰かに父の話を聞いて欲しかったの」
「今日は?」
「父の命日なの」
 彼女はどことなく後ろめたそうに言った。まるで僕を騙して悪事に付き合わせたように。
 勘定は彼女が払うと主張したが、僕が無理に払った。
「君のお父さんの命日に。気持ちだけ」
「ありがとう」
 タクシーに乗り込む彼女の後ろ姿を眺めながら、どうか彼女が二度と交通事故に遭わない事を祈った。そして彼女が唯一信じると言う、死んでからもなお彼女を守り続ける父親の霊に想いを馳せた。