「雨の記憶」
「私はね、昔すっごく身体が弱くてずっと入院してたの。小学校もね、ほとんど通うことが出来なくて、なんていうか特例みたいな感じで卒業させてもらったの」
僕たちは雨降りの中、一本の傘を差して寄り添いながら街を歩いていた。何もかもが雨の色に染まっている様な気がした。
「入院してる時もね、よくこうして雨降りを眺めていた。もちろん、病室の中からだったけど」
僕は黙って彼女の話を聞いていた。
「だからね、私は雨降りが嫌いなの。暗い気持ちになるから。雨の匂いやら音から病室の何もかもを連想するの。薬の匂いとか、誰かが咳き込む音とか」
彼女はそこで僕の顔を見た。
「あなた、雨は好き?」
「好きだよ」
「どうして?」
「こうして君と寄り添って歩けるからね」
「それは晴れの日だって出来ることでしょう?」
「色を塗ってるみたいなんだ」
「色?」
「灰色の景色に君と2人で歩く事で、雨上がりに空に架かる虹のような鮮やかな色を塗ってるみたいな気がするんだ」
彼女は僕の話を黙って聞いていた。
「出来ることなら君の思い出の景色にも色を塗る事が出来たらなと思うよ。僕と過ごす事で君の中の雨に対する想いが変わればいいと思う」
「私もいつか、雨が好きになる日が来るのかしら」
「2人でたくさん楽しい思い出を作ろう。雨の日も、もちろん晴れの日もね」
そこで初めて彼女はにっこりと笑った。優しく降り注ぐ雨の中を僕たちは歩き続けた。灰色の世界に鮮やかな色を塗る様に。