「角砂糖」
カップに入れた角砂糖がぐるぐると渦を描きながら底へと沈んでいった。コーヒーに砂糖を入れて飲んだのはずいぶん久しぶりだった。
「それで、どうして別れちゃったの、その彼女さんとは?」
「ふぅむ」
僕は言った。
「話すと長いんだ。幾分ややこしい話だしね」
「彼女さんの方に他に好きな人が出来ちゃったとか?」
「どうしてそう思うの?」
僕は目を丸くして言った。
「当たりかしら?」
「大体のところはね」
僕は言った。
「でも本当にどうして分かったの?この話をしたのは君が初めてなんだけど」
「あなたを見ていたら何となくそう思ったの」
「僕に何かしらそういう要素があるってこと?」
僕が少し傷付いて言うと、彼女は笑って言った。
「冗談よ、ただの当てずっぽうだから気にしないで」
そう言って彼女は僕の額を小突いた。
「それにね」
彼女は悪戯っぽく微笑んで言った。
「あなたって結構魅力的よ」
「そう言って貰えるとありがたいんだけど」
「だから自信を持ちなさい」
「ありがとう」
事あるごとに悩みを聞いてくれたり、落ち込んでる僕を励ましてくれるこの幼馴染には何度助けられたか分からない。今日もわざわざ忙しい仕事の合間を縫って喫茶店まで付き合ってくれたのだ。
この苦い人生において、ときにはそれを優しく和らげてくれる存在が必要だ。まるでコーヒーに入れる角砂糖の様に。カップの中の2つの角砂糖が溶けるまでの間、僕はそんな事を考えていた。