「血筋」
自分には父親などいないのだと何度も思い込もうとした。女癖が悪く、幼い頃の記憶にも母親を泣かせている光景が刻み込まれていた。
「同じ穴のむじなじゃない」
女が裸の私の胸に指先で意味のない図形を描きながら言った。
「同じじゃないよ」
私は言った。
「少なくとも僕は妻を泣かせたりなんかしていない」
「どうだか」
父親の様にはなるまいと思えば思うほど、己の身体を流れるロクでもない血を感じない訳にはいかなかった。
「ねぇ、この間あなたの奥さんを見かけたわよ」
「かよ子を?」
「両手に買い物袋下げて、いかにも家庭がありますって顔して。ねぇ、家に帰って楽しい?」
出来れば私はこの女の髪を掴んで引きずり回してやりたかった。他所で遊べば遊ぶほど妻が愛おしかった。
「ねぇ、今度旅行に行きましょうよ。ホテルばっかりで飽きちゃった」
「あぁ、今度ね」
私はベッド脇のテーブルのグラスに2センチばかり残ったウイスキーを一息で飲み干して言った。何もかもが気怠かった。