秘密 | shingo722のブログ

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 「秘密」

 「今日、近所で火事があったわよ」
 彼女は言った。
「ふうん」
 何気なく応えはしたが、内心なんとなく不安だった。彼女は火事を見ると固まったようにその場から動かなくなるのだ。
「昔火事を見たのが原因なのよ」
 彼女が以前そう教えてくれた。小さい頃親戚の家に遊びに行った際、その火事に出くわしたらしい。彼女と親戚の女の子はたまたま外で遊んでいて無事で済んだが、その親戚の女の子の母親は中で焼け死んだ。
「おばさんの叫び声が今でも耳に焼き付いているの」
 と彼女は言うが、真相は定かではない。そのおばさんの遺体が発見されたのは家の奥の方にある寝室で、火事のあった当時、昼寝をしていたおばさんは出火時に発生したガスですでに亡くなっていたと言う見方が濃厚だからだ。
「私、そのおばさんのことが好きじゃなかったわ」
 彼女は言った。
「当時その親戚の家でたまに火遊びをしながらね、このまま家ごと燃えておばさんが焼け死んだらどんなにいいかって思ってた」
 抑揚を欠いた声でそう言うと、彼女は俯いたまま、どこか一点を見つめていた。まるで当時の記憶がありありと目の前に現れているのを見るかのように。
「秘密を抱えたまま生きるというのはね、ある意味では死ぬよりも辛いことなのよ」
 彼女はそう言った。
「小さい頃の記憶なんて曖昧なものだし、あまり自分を責めない方がいいよ」
 僕がそう言うと彼女は微かに微笑んだ。そしてこう続けた。
「私が覚えているのはね、その火事の光景ともうひとつ、その親戚の女の子の背中にあったアザのこと」
「アザ?」
「一緒に遊んでいるときに、何かの拍子に見たの。その子の背中にあるくっきりとした無数のアザを」
 彼女はなおも一点を見つめたまま言った。
「その子は16歳で亡くなったの。自殺よ。」
「自殺?」
「ええ」
彼女はそう応えると、少し間を置いて言った。
「ある意味ではね、秘密を抱えたまま生きるというのはとても辛いことなの。ときにはそう、死ぬことよりもね」