「ジョギング」
走り始めて2週間になる。効果は2、3日ですぐに現れた。まず女房が気が付いた。
「あなた、少し身体が引き締まったんじゃない?」
「そうかな」
「続くと良いわね、ジョギング」
心なしか彼女は浮き浮きとしていた。
1週間も続けると会社の女の子たちが私を見る目が変わってきた。
「山下課長、少し格好良くなったんじゃない?」
「本当ね。私、アプローチしてみようかしら」
「馬鹿ね、山下課長は結婚してらっしゃるんだから」
彼女たちは聞こえよがしに噂していた。悪い気分では無い。
しかし、昨日専務に呼ばれてこう言われた。
「山下くん、最近調子が良いみたいじゃないか」
「調子、ですか?」
「仕事をバリバリやってくれるのは構わんがね、女子社員たちをたぶらかして貰っては困るよ」
「そんなつもりは…」
「とにかく、今後そういった素振りは慎むように」
こういわれては仕方がない。走るのはやめにしよう。そう思いつつ帰り支度をしていると、ウチの課の新入社員の姫野さんに呼び止められた。
「課長、今日はありがとうございました」
何のことか分からずポカンとしていると、「だって課長、私が今日、部長からしつこく飲みに誘われているところをかばって下さったでしょう?」
そういえばそんなことをしたような気もするが、私は単純に部長を「今日の帰りご一緒にどうですか、ひとっ走り?」とジョギングに誘っただけなのだ。
「走ってる課長もきっと格好いいんでしょうね」
そう言って姫野さんは意味ありげな目配せをして帰って行った。まだ当分走るのは止められそうにない。