木漏れ日 | shingo722のブログ

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 「木漏れ日」

 木々のすきまから差し込む木漏れ日が彼女の顔をまだらに照らしていた。
「ねぇ、リスの話を知ってる?」
 彼女は聞いてきた。
「リスの話?」
「リスってね、自分で隠したどんぐりの場所をすぐに忘れちゃうのよ」
 彼女はクスクス笑いながら言った。
「そういうのってすごく可愛らしいと思わない?」
「うん」
 僕もつられて笑いながら言った。
「でもね、リスが忘れたどんぐりのお陰で、そこから新しい木が生えて来るのよ。だからリスの物忘れもあながち悪いことばかりでは無いの」
「なるほど」
「ねぇ、もし、もしもの話しよ」
 彼女はおずおずと言った。
「私が記憶喪失か何かになって、あなたとの今までの記憶を全部忘れちゃったとしたらどうする?」
「記憶喪失?」
「私、何を聞かれてもすっかりあなたとの思い出を忘れちゃってて何も答えられないの。そしたらあなた、私のことあっさり捨てちゃう?」
「そんなことしないよ」
「本当にそう言い切れる?」
 彼女は真剣な顔で聞いた。
「もちろん。君が僕との思い出を忘れてしまったなら、また新しく思い出を作ればいい話じゃないか」
「そう」
 彼女はどこか思い詰めた声で言った。
「私、ときどきすごく不安になるの。あなたとの幸せな思い出が、事故が何かの拍子で急に消えてしまったら、私は何をよりどころにして生きればいいんだろうって」
 生い茂った木々が我々に暗い影を落としていた。
「僕は決して君をひとりになんてしないよ」
 僕は言った。
「君が僕を忘れてしまったとしても、もういちど僕は君との新しい日々を始めるよ。それは思わぬ実りあるものになるかも知れない。まるでリスの忘れてしまったどんぐりが大きな木になって豊かな緑の葉を茂らせるみたいに」
 彼女は微笑んで僕を見た。その顔には優しい木漏れ日が差し、そのまだらな光が彼女の不安も希望も柔らかく包み込んでくれているようだった。