白い部屋にて | shingo722のブログ

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 「白い部屋にて」
 
 「父は外資系の仕事をしておりました。週末は趣味の釣りに出掛けておりました。母は専業主婦でした」
 彼はそう言ってハンカチで口元を拭った。
「なるほど」
 私は紙にペンで彼の言ったことを書き留めた。
「兄弟は兄が1人おりまして、今はアメリカに住んでおります」
「ふむ」
 私はひと通り彼の言ったことを書き留めたあと言った。
「お父さんのことは好きでしたか?」
 彼はぼんやりとした目で私を見た。
「父のことが好きだったか?」
 彼はそう言ったきり、放心したように宙を見つめていた。彼の言葉は虚空に吸い込まれてしまったようだった。口は半開きのまま固まっていた。
「気持ちを楽にして」
 私はそう言ってみたが、彼の失われた言葉は還って来なかった。
「今日はここまでにしましょう」
 私は言った。
「受付で次回来られる日をお伝え下さい」
「わかりました」
 彼はまだ少しぼんやりと意識がどこかを彷徨っている様だったが、やがて部屋を出て行った。彼は有名な大学を出たあと、一流の企業に就職したが、周囲にうまく馴染むことが出来ず、やがて体調を壊すようになったのだ。
「次の方どうぞ」
 部屋に入ってきたのは、年齢にして37、8といったところの女でとにかく満遍なく丸々と肉が付いていた。ぴったりとしたピンクのスーツははち切れんばかりで今にも悲鳴を上げそうだった。
「お話をうかがいましょう」
「聞いてください先生」
 女は私の言葉が終わるのを待ちきれないと言った風に喋り出した。
「とにかく何を食べてもご飯が美味しくて美味しくて仕方がなかったんです」
「ふむ」
「それがここのところ食欲がほとんどなくて体重が3キロも落ちてしまったんです」
「なるほど」
「今朝だって大好きなフレンチトーストを2枚しか食べられなくて、それとカリカリに焼いたハムエッグとオレンジジュースしか飲んでいないんですよ」
 彼女は三日三晩何も食べていないという表情で言った。
「これは心理的なストレスから来るものなんでしょうか?私って繊細なところがあるから…」
「よろしい」
 私は脚を組むと真剣さを失わないように気を付けながら言った。
「ではカウンセリングを始めましょう」