「植物園」
植物園の中は蒸し暑かった。熱帯を再現しているらしく、湿気が肌にまとわりついて息苦しく、僕は早く外に出たかった。しかし彼女は先へ先へと僕の手を引いて進んで行った。僕はまるで自分が魔境の奥へと進んで行くような気がして、動悸がした。彼女は僕をたぶらかす悪戯好きの妖精のようだった。しかし、人間からしたら溜まったものではない。
そんな魔界のような植物園の奥に、一際目を引く奇妙な形の植物があった。
「ウツボカズラよ」
彼女は言った。
「ウツボカズラ?」
「食虫植物で、虫を誘き寄せて消化して養分にするの」
「随分おそろしい植物だね」
「あら、自然界では当たり前のことじゃない?」
彼女はそう言って笑った。そして少し声を落としてこう言った。
「ねぇ、想像してみて?自分が虫になって食虫植物に消化されていくところを。逃げようと思ったときにはもう、粘液が脚にまとわりついて逃げられない。虚しく脚を動かしながら羽を僅かにバタつかせるだけ。そしてゆっくり消化されて行くの」
あたりは花の香りでむせ返るようだった。まるでその香りは僕を絡め取ろうとしているかのようだった。そんな中で彼女は蠱惑的な笑みを浮かべて言った。
「もう逃れられないわ、一緒に来るの。もっと奥へ、ほら。それはきっとあなたが思っているような恐ろしいところなんかじゃないわ」
僕はまるで白昼夢を見るように、彼女の言うまま、その魔界の奥へ奥へと惹き寄せられて行った。