「意志」
ぼんやりと頭の中にあったものが次第に明確な形をとって姿を浮かび上がらせてきた。点と点が結ばれて線となり、線が集まって面が形作られた。その集合体がハッキリと姿を現したとき、僕は仕事を辞めることにした。
「仕事を辞めようと思うんだ」
僕が夕食の席でそう言うと妻はしばらく黙っていた。あらかた食事が片付いて、僕の言葉が虚しく宙に消えようとしたとき、やっと彼女は口を開いた。
「いいんじゃない?好きにすれば」
「そう?」
「だってもう決めてしまったことなんでしょう?」
「うん」
彼女の言う通りだった。
彼女と知り合ったのは大学生のときだったからもう10年以上になる。僕が3回生のとき、彼女は1回生だった。サークルが同じで知り合ったのだが、彼女の押し付けがましくはないが意志の強いところに次第に惹かれていった。
「あなたの好きにすればいい」
彼女がそう言ったとき、そこに投げやりさは無かった。おそらく前から薄々僕の気持ちに気付いて、覚悟していたのだろう。そういう、ヒトだった。
ベランダで煙草を吸いながら夜の街を眺めて、僕は将来のことを考えていた。これから先、自分の決めた道の先でつまづくことがあっても決して諦めない。彼女の意思に応えるためにも、僕はそう思った。