物哀しい男の話 | shingo722のブログ

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 「物哀しい男の話」
 
 昔、物哀しい男の話を聞いたことがある。物哀しい国に住む物哀しい男の話。彼はいつも物哀しい顔をして暮らしていた。朝起きて顔を洗い、髭を剃るときももちろん物哀しい顔をしていた。
「僕のせいじゃない」
 というのが彼の口癖だった。きっと彼は全てのことにうんざりしていたのだろう。王様の考えることや、兵隊の考えること、妻や子どもの考えること、そんな何やかやだ。もちろん、全ての責任は彼自身にあるということも出来る。その国に住むと決めたのも彼の妻と結婚すると決めたのも結局は彼自身だ。彼は流されるように人生を送っていたが、生き方はその人自身が決めるものだ。結局のところ。彼は毎朝コーヒーを飲みながら窓の外を眺め、遠くの方で立ち上る煙を見ながらこう思うのだ。
「僕のせいじゃない」
 と。
「あなたは私のことを考えているようで、結局自分自身のことしか考えていないのよ」
 彼女はそう言い残し出て行った。僕は余程その物哀しい男の言葉を借り、言いたかった。
「僕のせいじゃない」
 しかし結局のところ僕のせいなのだろう。彼女が残していった空白も、流し台に残された洗い物も、空っぽのタンスの引き出しも、物干し台も、薄暗い部屋も、全て。
 僕は窓の外を眺めたが、どこにも煙なんか立ち上ってなかった。