予言 | shingo722のブログ

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 「予言」
 
 「血は流されなくてはならない」
 その女は言った。その瞳は透明感を欠き、何を考えているか分かりかねたが、その視線は僕を射るようだった。目はカッと大きく見開かれ、僕というよりは僕のはるか向こう側を見ているようだ。そして奇妙に奥行きを欠いた平板な声でこう続けた。
「それが象徴的な意味であれ、実際にであれ、血は流されなくてはならない。犠牲無くして大きな事を成し遂げることは出来ない。それは自分自身分かっているはずだ」
「でも一体どうすれば」
 僕は聞いた。
「どうすれば僕は自分の望むものを手に入れ、自分の望むものになることが出来るんだろう?」
「とにかく時間をかけなさい」
 今度は女はそう言った。ゆっくりと、諭すような調子で。
「とにかく時間をかけること。そして多くの試練をくぐり抜けること。そしてあなたは自分自身の本当に望むものになるだろう」
 そこで僕は目が覚めた。時刻は夜中の2時半だった。ぐっしょりと汗をかいており、ひどく喉が渇いていた。僕はキッチンに行き、水道の水をコップに2杯ばかり飲んでから、キッチンの椅子に腰掛けた。すぐに眠ることは出来そうに無かった。書きかけの小説の続きを書こうかとも思ったが、筆は進みそうに無かった。僕の中のあらゆる言葉は失われるか、あるいは出口を見失い、代わりにさっき夢の中でその不思議な女が言っていた言葉が渦を巻く様に繰り返されていた。
「とにかく時間をかけなさい」
 その言葉は僕の中でどちらかと言うと呪いの様に響いた。すぐには結果は出ない。そう言われている様な気がした。
 眠れそうに無かったので仕方なく僕はシャワーを浴び、部屋の机に座りパソコンを立ち上げると、書きかけの原稿を開いた。そして頭の中で繰り返される言葉と向かい合うことにした。
「とにかく時間をかけなさい」
 混乱はあくまで混乱のままだったが、頭はいくぶんすっきりとしていた。いいだろう。確かに夢の女の言う通り、すぐには結果は出ないかも知れない。しかし、逆に言えば時間をかける覚悟さえ決まれば、自分を信じて後からついてくる結果を待つしかない。僕の小説は新人賞を獲るかも知れない、あるいは獲らないかも知れない。どのようなことになろうと僕はこれからも書き続けると決めた。