「朝の香り」
「起きて」
彼女の優しい声が響いていた。
「起きて、ねぇ起きて、お願い」
あるいは眠りこけた電車の中で、目的の駅を乗り過ごさないように、またベッドの中で、日曜日のピクニックの約束を思い出させるように、彼女の声は僕の頭の中で優しく響いていた。そろそろ起きなくちゃな。僕は思う。そのまどろみの中で、柔らかな光と乳白色の液体に包まれて僕は覚醒を試みる。声のする方へ、彼女の姿を求めて手を伸ばす。たとえそれがけたたましく鳴り響く目覚まし時計に姿を変えたとしても。
食卓に並ぶサラダとトーストとハムエッグとコーヒーの香りに包まれて、彼女の姿はあった。朝の光景だ。それは僕をとても心穏やかにさせる。まだ何の予定も決まっていない、まっさらな朝。さて、と僕は思う。そして朝食を食べながら今日一日の予定を立てる。たとえ彼女と2人、再びベッドの中でまどろむだけの一日に終わったとしても、それはそれで構わない。でもとにかく、彼女と2人朝食を食べながら今日一日の計画を話し合おう。さて。