「出会い」
出会ったのは雨の中だった。柔らかな雨に包まれた彼女はまるで葉っぱの下から顔を覗かせるコロポックルのような無邪気さで笑顔を見せてくれた。どこに行くときも彼女は僕に寄り添って、その愛らしさで僕を癒し、和ませてくれた。しかし彼女から雨のイメージは抜けなかった。
その原因が分かったのはずっとあとになってからだった。誰よりも他人のことを気に掛けて人に寄り添う彼女は、それでいて誰よりも深い孤独の中にいた。
「私ね、昔いちど、駄目になってしまったことがあるの。」
彼女はゆっくりと言葉を区切って言った。
「駄目になった?」
「周りの人のことを考えられるだけ考えて、どうしたら皆んなが幸せでいられるのかを考えて、それでも追いつかなくて、自分のことを守ることも忘れて、それで…。」
そこでまた彼女は言葉を区切った。しかし続きは出てこなかった。彼女が口にするはずだった言葉は虚空に飲み込まれ、その行方を探すように彼女の視線は宙を彷徨った。
「ごめんなさい、よく分からないわね。」
彼女は弱々しく笑った。どことなく雨の匂いのする微笑みだった。
「側にいるよ。」
しばらくして僕は言った。
「君の抱えるもの全てを支えてあげられるかどうかは分からない、それでも側にいるよ。」
囁くように、しかし確かに覚悟を決めてそう言った。
「でも、あなたの重荷になるのがこわいの。」
「僕は決して君を重荷だなんて思わない。それだけはハッキリと言えるよ。たとえこの世界が不確かなことに溢れていたとしてもね。」
僕が彼女の目を見て言うと、やがて彼女は優しく微笑んだ。
しばらく降り続いた雨があがり、晴れ間が覗いていた。僕たちはおずおずと、しかし、しっかりと手を取り合い、二人寄り添って雨上がりの街を歩き始めた。