時間の川 | shingo722のブログ

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「時間の川」
 
 すでにこの世を去った作家の作品しか読まないという男がいた。彼は僕の友人だった。そしてその作家が文豪であり、その本が分厚い全集であるならば申し分ないということだった。
「なぜそんなに古い作家の本ばかり読む?」
 ある日僕は尋ねてみた。
「時間を無駄にしたくないからさ。」
 彼は答えた。
「世を埋め尽くすあまたの本の中から時間の検証を経て残った本だけを読む。」
「人生は短い。」
 僕は言ってみた。
 彼は満足そうに頷くと、“バルザック全集”に目を落とした。
 確かに人生は短い。しかし全てのものごとに時間の検証をいちいち求めているわけにもいかない。たとえそれが一過性のものであったとしても、そこに普遍的なものを見出すことは可能であるはずだ。要は、自分の中に尺度を持つことが大事なのだ。ファッション誌のコラムの一行から人生を貫く哲学を学ぶ人がいたって悪くないんじゃないかと思う。
 我々は喫茶店のテーブルを挟んで向かい合って座っていた。そして僕は、そのテーブルの上に流れる深くて濃密な時間の奔流に思いを馳せてみた。