「夏の景色」
遠くの景色を眺めるのが好きだった。遠くの景色を眺めていると、自分自身の意識が細分化されていき、やがて景色に溶けていく様な気がした。景色に対してそんな奇妙な一体感を描いているのは僕ぐらいのものかも知れない。しかし物事には往々にしてそのように個人差がある。季節は夏だ。
「駅前のサーティワン・アイスクリームに行きましょうよ。」
彼女は言った。
「映画を観に行くのはそのあとでもいいでしょう?」
「うん。」
僕は頷いて言った。こう暑くてはアイスクリームでも食べないことにはやっていられないし、それに大して映画が観たいわけでもないのだ。さらにビールが飲めたら言うことはない。そのようにして我々はアイスクリームを食べ、あまりパッとしないラブストーリーの映画を観て、映画館の近くのコンビニエンスストアで僕はビールを買って飲み、彼女はアイス・レモネードを飲んだ。そして家に帰りそれなりに充実したセックスをした。まずまずの一日だと言っていいところだ。
細分化されて風景に溶けた僕の意識はキラキラとした粒子となって真夏のグラウンドに降り積もり、公園のブランコに積もり、彼女の焼けた肌にも積もった。そのようにして夏と一体化した僕は、やがて来るべき秋を前に、今しばらくその熱と輝きを謳歌していた。