「タイムリープ」
コツコツと音を立てて時計の針が時を刻んでいた。
「つまりあなたは…。」
そこで僕は少し間を置いた。
「タイムリープを繰り返しているわけですか?」
「さよう。」
彼は言った。部屋の中でも彼は帽子を取ろうとはしなかった。あるいは表情の変化を悟られたく無いのかもしれない。
「つまり…。」
再び僕は間を取ってから尋ねた。
「恐竜がいた古代から車が空を走る未来まで?」
それは尋ねたいから尋ねたと言うよりは、どうにか間を埋めるために為された質問だった。どう考えてもそんな馬鹿げた話をはい、そうですかと信じてしまうわけにはいかない。
「正確には第一次世界大戦から第二次世界大戦の間、そして米ソ冷戦の時期を主な職場としております。」
職場、と彼は言った。
「私自身は恐竜のいた白亜紀やジュラ紀に行ったことはありません。我々にはそれぞれに担当する持ち場があるのです。」
担当?
「失礼ですが、あなたはどのようなご職業をなさっておられるのですか?」
男はチラリと腕時計に目をやってから答えた。
「簡単に言えば時間の管理のようなものです。その時代、その場にそぐわない時間の流れが出来ていないか、澱みなく時間が流れ“おり”の様なものが溜まっていないかを確かめる仕事です。まぁ、戦争などの大きな出来事が起きるとそこには時間の“おり”も生まれやすいのです。」
僕は曖昧に頷いた。彼の話は荒唐無稽なりに筋が通っているように思われた。
「ただ、我々の時代にもまだ空を走る車は発明されておりません。我々のような職種の人間が用いる事を許されている、いわゆるタイムマシーンの原理も、いわば偶然の重なりによって発見されたようなものですから。」
彼は席を立ちながらそう言った。
「またお会いしましょう、いや、もうお会いすることは無いのかな。あなたは交通事故の衝撃で生まれた時間の“おり”に偶然巻き込まれ、あやうく時の狭間を永遠にさまようことになるところでした。そして私が管理局から通報を受け駆けつけたわけですが、あなたを助けるだけ助けて、はい良かったですねと返してしまうのも余計に混乱させてしまうだけだと思い、こうして喫茶店までご足労願ったわけです。もちろんこのことは他言無用で願います、まぁ話したところで誰も本気で信じたりはしないと思いますが。」
彼はそこまで話すとにやりと笑った。
「会計はお気になさらずに。経費で落ちますので。」
そう言って彼は店を出て行った。時間管理の会社にも経費で落とすなどという発想は存在するのだ。どの時代も変わらないものだな、とぼんやり僕は思った。
店を出ると痛む足を摩りながら病院に向かった。幸い怪我はかすり傷程度で済んでいたが、念のため病院に行くよう彼は言った。
「あとで何かあってはこちらの責任問題にもなりますのでね。」
それもいつの時代も変わらない観念のようだった。僕は自分の身に起こった出来事や彼の不思議な仕事のことを考えながら病院への道を歩いて行った。