ウイスキー | shingo722のブログ

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 「ウイスキー」
 
「なぜウイスキーなんか飲んでいるの?」
 彼女は尋ねた。
「飲みたいからさ。」
 と僕は答えた。
「そうじゃなくて、どうして昼間からウイスキーなんて飲んでいるのって聞いてるのよ。」
 彼女は僕をじっと見つめながら聞いた。
「さぁ。」
 僕は答えた。
 一体なぜ昼間からウイスキーなんか飲んでいるんだろう?始めはこんなつもりでは無かった。仕事が午前中に終わったから、ビールでも飲みながら軽くつまみでも食べようと思っていただけだったのだ。しかしいつの間にか僕は引き寄せられるように戸棚からウイスキーの小瓶を持ち出し、ソーダで割って飲んでいた。小瓶はすでに空になっていた。
「何か不満なことでもあるの?」
 彼女はまた尋ねた。不安と苛立ちが半々といったトーンだった。
「いや、そういうのでもないんだ。」
「あのね。」
 彼女は言った。
「まともな人間は昼間からウイスキーなんか飲まないわ。ましてや小瓶を空にしたりなんかしない。」
 僕は黙っていた。
「とにかくそれ以上お酒を飲むのなんか止めてちょうだい。夕食は外で食べる約束でしょう。それまでには酔いを冷ましておいてよね。こんなお酒くさい部屋にはもういられないから先に出ておくわね。」
 彼女にしたところで酒を飲まないわけではないが、あまり強い方では無いし、第一に昼間からこんな酒の匂いのこもった部屋で過ごすには彼女の倫理観はあまりに“まとも”過ぎた。やれやれ、一体なんでまた昼間からウイスキーなんて飲む気になったんだろうな。僕はもう何回目だか分からない問いかけを繰り返した。今のところ彼女に対する大きな不満はない。怒り出すと若干ヒステリー気味になるところと、やたら大きな音を立てて鼻をかむところ以外はまずまず気に入っている。最近やたら外出が多いところも別に気にしてなんかいない。むしろ、普段見せる気遣いや優しさは彼女にしかないものだとも思っている。
 それでも、と僕は思った。家に帰って彼女のいない部屋でひとりでいると段々とそわそわと落ち着かない気持ちになってくることがあることも事実だ。メッセージに既読が付かないときやこちらからの着信に出ないとき、僕の鼓動は微かに速くなる。僕の知らないアクセサリーを化粧台で見かけたときや知らない香水の香りを嗅ぐとき、微かに、しかし否応なく僕の胸は痛む。
 それでも、とまた僕は思った。僕はまだ彼女のことを愛していたし、それはどうしようもない事実だった。だから僕は部屋の中でひとりで彼女の帰りを待った。ときにはウイスキーで気を紛らわせながら、辛抱強く、あるいは馬鹿みたいに。