「万引き」
「盗ったもの全部出して。」
僕は冷ややかに言った。ここで甘さや情を出してはならない。
「はい。」
しくしく泣きながら半魚人はバッグから日焼け止めローションとリップクリームを出した。
「本当にこれで全部?」
僕は疑り深い目でチラリと半魚人の顔を見た。全く、半魚人なんて信用出来たものでは無いからだ。
「本当です、これで全部です。」
彼は世も末といった様子で泣き崩れながら言った。
「何だってまたこんな物盗ったの?」
理由など知れていたが、僕もスーパーの店長という立場上訊いておかなければならない。
「はい、我々半魚人は非常に乾燥に弱いんです。それにこう日差しが強くっちゃ肌が…というかウロコが焼けてしょうがないんです。このままじゃ焼き魚になっちゃいます。」
僕は必死に笑いを堪えながら真剣そうな顔で彼の話を聞いた。
「それにずっと口をパクパクさせてるせいで唇も乾くんです。」
彼は口とエラをパクパクさせながら言った。
「まぁ、そうだろうね。」
陸で口をパクパクさせることの必然性や彼の分厚い唇が乾燥することとの因果関係は定かではなかったが、僕は適当に相槌を打った。このままでは本当に吹き出してしまいかねない。そんなことになったら店長の面目は丸潰れだ。それに相手に侮られたり罪の意識を軽くされても困る。半魚人に侮られては全人間(そんな言葉あるのかな?)の尊厳に関わる。
「とにかく、警察を呼ばせてもらうよ。」
僕は話を早く切り上げるためにもそう言った。
「勘弁して下さい、なんでも言う事聞きますから。」
「じゃあ焼き魚にでもなってもらおうかな。」
「そんな意地悪言わないで下さい、どうか御慈悲を。」
「まぁまぁ、その辺で許してあげなさいよ。」
半魚人がいよいよ激しく泣き崩れたところでオーナーが割って入った。
「しかし…。」
「今回は初犯みたいだし、そんなに泣いたら干物になってしまうわ。」
「はは…。」
ついに僕は吹き出してしまった。半魚人もバツが悪そうに笑い、しかめ面だったの警備員も笑い出した。
「まぁ、オーナーもこう言ってくれてる事だし、今回は見逃してやる。しかし、次はないぞ。」
僕は釘を刺した。
「はい、恩に来ます。ありがとうございます。これに懲りてそんなにしょっちゅう陸には上がらないことにします。」
半魚人はオーナーと僕と警備員にペコペコと頭を下げながら出て行った。
「可愛らしい子じゃない。」
そう言ってオーナーは笑った。まったく、人魚というヤツは半魚人に甘いのだ。