「小説を書くと、決めたこと」
小説を書くと決めたとき、僕の決意はとても硬く、そこには毛ほどの妥協の余地も無かった。まっさらな原稿用紙を前にしたとき、僕の決意はより硬く、そこからは歴史に残るような傑作がいくつも生まれるであろうという予感があった。しかし、いざ何かを書こうとしたとき、僕はハタと困ってしまった。僕には書くべきテーマと呼べるものが何も無かった。政治に対する強い憤りや、時代に対するアンチテーゼも無かった。さしあたって僕自身の文章力の問題は別として。
そのようにして決意虚しく、僕は小説家になることを断念し、生まれるはずだった文章は歴史の闇へと葬られていった。
そして今、数年の歳月を経て、僕はまたボチボチと文章を書くことを決めた。大した文章ではない。国語の教科書に僕の名前が載って後々まで読み継がれることもないだろう。しかし今後書こうとしているのは紛れもなく僕の文章であり、僕のことでもある。僕は自分が生きた証を僅かなりとも、確かに留めるために文章を書くのだ。
今後とも、僕の文章が世間の多くの人の目に触れることは無いかもしれない。それでも僕は文章を紡ぎ続けようと思う。ささやかなりとも僕が存在したことを、そこに刻むために。