「窓の外の光景」 | shingo722のブログ

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「窓の外の光景」
 
 彼女が去ってしまってから数日の間、僕は何をする気にもなれなかった。ただアパートの部屋で床に腰を下ろし、壁にもたれてぼんやりとしていた。壁に掛かった時計は黙々と時を刻み続けていたが、それは僕には関係の無いことのように思えた。傍に置いた灰皿はすぐに煙草の吸い殻でいっぱいになった。
 部屋に差し込んだ西日がその日一日が終わりかけていることを告げていたが、僕はまだ立ち上がることが出来ずにいた。アパートの前を竿竹屋のトラックがゆっくりと通り過ぎ、若い母親がその小さな子どもと手を繋いで商店街に向かって歩いて行くのが見えた。窓の外の世界では日常がいつも通りに営まれており、自分だけがそこに馴染めずにいるようだった。
 結局のところ僕の中にはもう、彼女に与えられるものが何一つ残されていないのだろう。そのことは分かっていた。彼女がここ数日、僕の友人と継続して何度か寝ていたからといって彼女を責める気にはなれなかった。
「あなたといると気づまりとかそういうのじゃないのよ。ただ、自分がどこにも行けなくなってしまったような気がするのよ。」
 彼女の言い分にも一理あった。
 日がすっかり沈み、窓からひんやりとした冷気が忍び込んでくる頃、僕はインスタントコーヒーを作って飲んだ。その温もりと部屋に満ちた香りはほんの少しだけ僕の心を和らげてくれたが、それでもある種の空虚さは胸の中に留まり続けていた。窓の外から空に浮かんだ三日月が、その鋭利な輝きを部屋の中に投げかけていた。