かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」 -46ページ目

官能小説「夕日に隠れて」七

僕は松倉の顔に、ゆっくり、というより恐る恐る顔を近づけた。



自らの欲望に従ったわけではなかった。



松倉の色香に吸い寄せられたのだ。



一瞬、ほんの一瞬、松倉が、ウソだよ~って舌を出して僕を馬鹿にする姿が頭に浮かんだ。



でも、徐々に近づいて濃くなってくる松倉の香りによって、それもすぐにどこかへ押し流された。



ぼんやりと薄くなってゆく僕の視界で、松倉の、まだ汚れを知らない白い肌が、大人びた目が、なめらかな唇が、幻のように美しく艶やかに整えられてゆく。



頭の中は、神秘の森に漂う妖しい霧に包まれ、硬直しそうな理性を溶かし、魅入られた世界に没入せよと甘く囁く。



少しだけ、恥じらいと現実感覚を取り戻したのは、夢気分の中ですでに松倉にそっと口づけをした後だった。



それは本当に、夢幻のような、とろけるような瞬間だった。



ああ、とうとうキスしちゃったよ…



僕がまだ失いきれていなかった廉恥心(れんちしん)と、貪欲な欲望とが絡み合って、淫靡な妄念はさらに昂(たかぶ)り、松倉の全てを、この唇で吸い尽くしたいと願うようになった。



と、松倉とつながったままの唇に、何か柔らかで粘つくような感触が襲ってきた。



すぐに、それが松倉の舌先だとわかった。



その感触は、光のスピードで僕の唇から脳髄へと伝わり…



痺れるような快楽への期待が、大海嘯のように僕の全身へ広がっていった。



いいのだろうか、こんなに気持ちよくなってしまって…



いいのだろうか、こんなに一人の人間と深く交わってしまって…



かそけく生じた戸惑いを押しのけて、松倉の舌先が、僕の口の中に入ってきた。



もう何も考えられなくなった。