老いの一徹:【今様今昔物語:昭和という時代の特徴(その2)】 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

 本日は、有閑爺い様の寄稿コラムです! 文中の「現在も残されている多くの事物やシステムが戦争遂行のために作られたもの」はなかなかに名言かと思います。
 是非とも秀逸なコラムですので、お読みいただきたいと存じます。

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老いの一徹:【今様今昔物語:昭和という時代の特徴(その2)】 | 有閑爺い様

 前回のコラムで日本に近代工業が定着したのが「昭和」という時代であり、そのことが昭和を特徴づけることでもある、という趣旨の説明をいたしました。

 もう一つの特徴は、現在も残されている多くの事物やシステムが戦争遂行のために作られたものである、ということです。

 

 その1例を下図(昭和11年に発行された鉄道路線図の裏面に掲載されていた東京市電の路線図)から説明します。

 因みに、この地図は我が家の物置に眠っていたもので、運賃表も掲載されており東京・三ノ宮(神戸市の中心駅)が6円19銭となっています。現在は9290円ですので、昭和11年から約1500倍になっているわけです。

 

 

 当時の東京の路面電車で残っているのは「都電荒川線」のみですが、この都電荒川線は上図では「王子電車」となっており「東京市電」ではなかったのです。

 私事ですが、この路線の「荒川車庫前」という停留所からすぐ近くにあった「キリンビール東京工場」で仕事があり、JRの「王寺駅」から「荒川車庫前」へは何度も利用したので、思い出があります。

 なお、「キリンビール東京工場」も約20年前には閉鎖されていますので、「昭和は遠くなりにけり」とつくづく思います。もっとも昭和時代には「明治は遠くなりにけり」と言われていましたので、繰り返しの連続なのかもしれません。

 

 少し脱線したので、元に戻します。

 

 昭和11年当時は「東京都」ではなく「東京府東京市」でした。従って路面電車は「市電」であったのです。ところがそれが「都電」になったのです。

 「東京都」というのは大東亜戦争中の昭和18年に軍部の命で作られたもので、当時の市長は住民が決める者であったため、軍部の意向に沿わない人が選ばれる可能性が有り、それを嫌ったためになされたことで、端的に言うと地方自治を制限する仕組みなのです。

 地方自治の制限という戦争遂行のための仕組みがそのまま現在まで続いていることが、この路線図から読み取れるわけです。

 

 ではなぜ「王子電車」が「都電」になったのでしょうか?

 実はこの裏で、「電力の国家統制」ということが行われたことが直接原因です。「王子電車」は当時のいわゆる「電灯会社」すなわち電気を作って民間に売るという会社の一部門であったのです。

 当時の日本は全国各地に多くの「電灯会社」があり、それぞれが発電所を持っていてその地域の人たちに電気を売るといった完全な民営事業だったのです。

 そのことが軍需生産の差しさわりになると考えた軍部が日本発送電株式会社という会社を作り、全国の発電所を傘下に収めたのです。これは「国家総動員法」という法律の制定と同時期に行われたもので、昭和13年のことでした。しかしこの時点ではまだ「王子電車」は残っていました。なぜなら、配電事業という需要家一軒づつに電気を送り届けるということは従来通り「電灯会社」が行っていたからです。

 民営の会社が数多く残ることを不満とした軍部並びに産業関連の官僚が、全国を9ブロックに分けて、その一つずつに配電事業を行う会社一つ設けるという集約方法を決めたのが戦争の始まる年の昭和16年で、完全な実施をがなされた昭和17年に、「王子電車」の電灯(配電)部門は関東配電(今の東京電力)に、電車部門は東京市電気局に吸収されて、「王子電車」は消滅しました。

 東京市電気局はほどなく東京都電気局になりましたので、「王子電車」が「東京市電」であったのは1年ほどで、すぐに「都電」となったのです。

 「電力の国家統制」という戦争遂行のための仕組みが、そのまま現在の9電力会社になっているわけで、そのことがこの路線図から浮かんでくるのです。

 

 「現在も残されている多くの事物やシステムが戦争遂行のために作られたもの」という視点で、この路線図を隈なく見てゆくと、色んなことが浮かんでくるかもしれません。

 温故知新は何を素材として取り上げても行えると思います。

 古くから行われていることを素直に見て、その本質を見抜く力を養うことが必要でしょう。

 

(了)


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