「租税貨幣論」概論 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

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「租税貨幣論」概論~osrata31様

今回のコラムのお題は、ジータ様からの解説依頼の第二弾、「租税貨幣論」の解説になります。

(第一弾の「貨幣負債論(信用貨幣論)」の解説はこちら

「租税貨幣論」をL.ランダル・レイの「現代貨幣論」から紹介します。

 

「租税貨幣論」とは、税の存在こそが国定通貨を流通させるという理論です。

 

一般的には、税金には4つの機能があるとされています。

①公共サービスの費用調達機能

②所得の再分配機能

③経済への阻害効果

④景気の調整機能

 

今回はこのどれにも触れません。

(次回のMMTの解説では、このうちのいくつかについて触れることになります。)

 

つまり一般的に言われている税の機能以外にも、税には特別な機能がある、というのが「租税貨幣論」の主張になります。

 

不換通貨の流通

人類は、歴史を遡ると、金、銀、銅といった貴金属を通貨にしていました。

数十年前までの金本位制の時代には、貴金属ではなく紙幣を通貨にしていましたが、その通貨には「ゴールド」という貴金属の裏付けがありました。

その時代の通貨は、「貴金属」という人類史上その価値が高水準で推移してきた「モノ」に交換することが出来ました。

また現在でも「ドルペッグ」といった、特定の通貨に固定(裏付け)された通貨があります。

 

しかし、日本を含む先進国の通貨は、このような裏付けのない「不換通貨」が主流です。

しかも、「不換通貨」には貴金属のような内在的な価値はありません。

しかし現実に、貴金属による裏付けも内在的価値もない「不換通貨」で商取引が行われています。

コンビニやスーパーでの買い物も「不換通貨」で支払うことが一般的です。

最近ではキャッシュレスで「紙幣」や「硬貨」を使う人々が少なくなりつつありますが、このようなキャッシュレスも「不換通貨」に裏付けられています。(Tポイントなどの通貨での支払いについては後述します。)

 

なぜ裏付けのない通貨が流通するのでしょう?

この疑問に対する一つの回答として、「法律で決まっているから」というものがあります。

しかし、歴史的には、法律で通貨の種類を決めても、民間においてその通貨での支払いを拒否されることはもちろん、政府への支払いを拒否する例があったそうです。

これでは、「法律で決まっているから」、というのは回答になりそうにありません。

 

もう一つの回答として、「信頼」- 誰かしらがそれを受け取るという期待 - があります。

あなたは、他の人がその通貨を受け入れるだろうということを知っているので、あなたはあなたの国の通貨を受け入れるだろうという理屈です。

しかしこれは、哲学で言うところの無限後退にあたります。

 

確かに、通貨の流通は確かに「信頼」で成り立っている部分があります。

しかし、それだけでは、裏付けのない通貨がその国の主流の通貨として流通しているという現状を十分に説明できません。

 

それでは一体何が主流の通貨となる決め手なのでしょう?

 

税が貨幣を駆動する

「税金その他の政府への支払い義務」

以下では簡単のために、政府と呼ぶときは、特別な断りがない限り、統合政府のことを指します。

 

政府は、「どの通貨で、納税およびその他の政府への支払いができるのか」を決めることが出来ます。

その他の政府への支払いというのは、罰金や手数料といったものを指します。

ここで政府は、政府自身が発行する通貨(「日本銀行券」や「日銀当座預金」、「硬貨」など)を「納税に使用できる通貨」に指定できます

このような通貨を、以下では「国定納税通貨」と呼ぶことにします。

なお、「国定納税通貨」は私の造語です。(レイ「現代貨幣理論」に適当な言葉がなかったためです。)

 

税金の未払いには罰則があります。

政府がこの罰則を確実に執行する力を持っていれば、

民間はこの罰則を回避するために、指定された通貨を取得して納税に使う必要があります

つまり、政府は納税義務を民間に課すことができ、義務の不履行に対する罰を執行できる能力を持っていれば、民間の納税通貨に対する需要が確実になります。
言い換えると、民間には納税義務があるので、「国定納税通貨」に対する貨幣需要が生まれるのです。

 

納税は税務署でもできますが、大半の納税は銀行経由で行われています。

納税者の預金口座から納税額分の預金額が引かれると同時に、銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金へ納税額分の準備預金が移動します。

このとき銀行の純金融資産は変化しません。

(銀行の負債となる銀行預金と資産となる日銀当座預金で相殺されます。)

銀行は、納税者と政府の仲介者となるわけです。

 

納税者は納税に使ったっ通貨、つまり国定通貨を他の目的に使用することが出来ます。

政府硬貨や日本銀行券を使って、国内で買い物をすることが出来ますし、住宅ローンなどの民間債務の支払いに充てることも出来ます。

民間企業同士の取引に使うことも出来ます。

使用せずに貯金しておくことも可能です。

ですが、国定通貨のこのような使用法はあくまで派生的なもので、本来は政府への納税のためでした。

 

民間から政府への納税に先立って、政府は国定納税通貨を民間に供給する必要があります。

先に民間に供給しておかなければ、民間は国定納税通貨を取得できないからです。

国定納税通貨の供給手段には、政府支出や買いオペなどがあります。

 

政府は税金その他の政府への支払いが、政府自身が発行した通貨で行われる場合、この通貨での支払いを拒むことは出来ません。

自身で発行した借用書に対して対価(納税などの支払い義務の解除)を支払えないということは、デフォルトになってしまうからです。

これは民間からすると、国定納税通貨は政府への支払いとして確実に受領される通貨として保証されるていことになります。

このことが、民間が国定納税通貨を保有し流通する最大の動機になります。

このように、通貨に確実な使い途があることを、MMTでは通貨の「最終需要」と呼びます。

後述しますが、「最終需要」はどの通貨にも存在し、通貨ごとにその中身は異なります。

 

国定納税通貨には、「租税」という「強制力を伴った」確実な「最終需要」があるが故に、その国の主流の通貨として流通するのです。

 

以上が「租税貨幣論」の概論になります。

 

 

おまけとして、「租税貨幣論」と関係が深い「債務ピラミッド」という考え方にも簡単に触れておきます。

「債務ピラミッド」には現状いろんな表現(「債務ヒエラルキー」「決済ヒエラルキー」など)がありますが、これらは全て同一の概念です。

 

前回のコラムでも最後に触れましたが

レイの師であるハイマン・ミンスキーは「誰でもお金は発行できる」「問題は受け入れられるかどうかだ」と言いました。

 

前回のコラムで説明した通り、通貨とは負債であり、負債とは数値化した義務です。

そして義務は、きっかけさえあれば、誰もが他人に負わせることが出来ます。

しかし債務者はその義務を無視することが可能です。

したがって、債務者にとってその義務を履行するメリットや、その義務を無視したときのデメリットがあれば、債務者がその義務を履行する動機になります。

「租税貨幣論」では納税しなかった時の罰が、債務者が納税義務を履行する動機になりました。

義務を履行するメリットや義務を無視したときのデメリットが、その通貨の「最終需要」となります。

通貨には色々な種類がありますが、その通貨が流通するか(通貨の受け入れやすさ)は「最終需要」によって決まります。

これはヒエラルキー構造を成しており、これを説明するのが「債務ピラミッド」になります。

 

「債務ピラミッド」の構成

「債務ピラミッド」は以下のような構成でなりたっています。

頂点には統合政府が発行する通貨(「日本銀行券」「日銀当座預金」等)があります。(政府のIOU)

頂点から二番目には銀行通貨(銀行預金など)が位置します。(銀行のIOU)

三番目には銀行以外の金融機関の発行する通貨、負債。(金融機関のIOU)

そしてその下に、会社等が発行する手形などが位置します。(会社のIOU)

底辺は個人が発行する借用書です。(個人のIOU)

 

統合政府が発行する通貨がピラミッドの頂点にあるのは、前述した通り、「租税」という「強制力を伴った」確実な「最終需要」があるためです。

その国の殆どの場所で決済できるので、その国の主流の通貨としてとして流通します。

対して、底辺の個人が発行する借用書は確実な「最終需要」が殆どないため、通貨としてはとても狭い範囲でしか流通しません。

 

「債務ピラミッド」には、下位の負債を上位の通貨で必ず決済できるという特徴があります。

まず、銀行による貸付は「日本銀行券」で決済することが出来ます。

銀行以外の金融機関の負債は「日本銀行券」や「銀行通貨」で決済することが出来ます。

手形も「日本銀行券」や「銀行通貨」、銀行以外の金融機関が発行する通貨で決済することが出来ます。

とは言え、ピラミッドの低い位置の負債への決済は、普通、銀行のIOUを使用します。

そして銀行は、政府のIOU(日銀当座預金)を使用して、自分のIOUを精算します。

ここでも銀行は、債務者と債権者の仲介者となるわけです。

もちろん銀行の純金融資産は変化しません。

 

その逆、上位の負債を下位の通貨で決済すること、は納税の例のように可能ではありますが、以下で示すように必ず決済できるとは保証できません。

 

Tポイントのようなポイントや電子マネー、暗号通貨も債務ピラミッドのどこかに位置します。

どこに位置するかはその通貨の信用度、言い換えると「最終需要」の確実さによって決まります。

例えば暗号通貨は、どこかの国の債務ピラミッド上位の通貨に交換できるだろうという「信頼」が「最終需要」となるため、ピラミッドの比較的低い位置になります。

上位ヒエラルキーの通貨に交換できるという「信頼」がなくなると、その暗号通貨の価値は暴落します。

したがって、現状の暗号通貨が主流の通貨に取って代わるということは有り得ません。

(暗号通貨に現状以上の「最終需要」が与えられると話は変わってきます。)

 

最後の個人が発行する借用書ですが、「現代貨幣論」では思考実験として「家族通貨」という通貨を考察しています。

親が子供に家の仕事をさせることで、子供に家族通貨を支払います。

ここで親は子供に納税義務を課します。家族通貨を子供から徴収するのです。

もし納税されなかった場合に罰を与えるとすると、子供は一生懸命働くでしょう。

これは政府と民間の関係と同じであることがわかります。

 

以上が「債務ピラミッド」の概要です。

 

 

次回は、本丸「MMT」とは何ぞや?の解説になります。

 

追記

「租税貨幣論」で注意すべきことがいくつかあります。

まず、「増税すると経済が拡大する」と言う理論ではないことです。

「租税貨幣論」はあくまで、納税の機能がしっかり働いていれば貨幣が流通する、という話です。

課税額の大小の話ではないのです。

 

また、「納税の機能がしっかり働かない場合はどうなるの」という疑問が出てくるかと思います。

発展途上国では、脱税や納税回避が横行しており、納税の機能がしっかり働いていません。
ギリシャもその典型です。
そうなると、「高い財政赤字の割に高インフレを招く」ことになります。
通貨が政府に回収されないと生産物の供給量以上に民間に通貨がダブつき、高インフレになります。

現在の日本とは真逆の状態です。

高インフレの状態では、公共事業や防衛装備などの購入はさらなるインフレの上昇を招き、結果として、財政出動による経済発展は困難になります。

このことをMMTでは「国内政策空間」の余地が減少する、と言います。

 

納税の機能がしっかり働かないと、経済成長を目指す政府にとっては「八方塞がり」になります。

 

(了)


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