「日本」~未完のプロジェクト | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

本日は、バケツリレー様の臨時寄稿コラムです!

アメリカの左翼史について触れられておりまして、大変に興味深く、またリチャード・ローティの著書に興味を引くものです。

私(ヤン)は現在、左右よりも上下の政治闘争が日本及び世界の実態であろうと認識していますが、リチャード・ローティの慧眼は18年ほどまえにそれを見抜いていた!というところなのかもしれません。

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「日本」~未完のプロジェクト~バケツリレー様

以前、ソウルメイトさんが『This is Japan 英国保育士が見た日本』(ブレイディ・みかこ著)を参考に、イギリスと日本の左翼について論じておられましたので……

 

今度は、アメリカ左翼についての本から日本の現状を考えてみたいと思います。

ネタ本は『アメリカ 未完のプロジェクト 20世紀アメリカにおける左翼思想』(リチャード・ローティ著 小澤照彦訳 晃洋書房 平成12年11月)です。

 

この本の要点をまとめますと……

 

アメリカ左翼は2種類に分けられる。
20世紀前半に活躍した旧型左翼と、1960年代以降に盛んになった新型左翼である。

 

旧型は、プラグマティズムの哲学者デューイや詩人のホイットマンの影響が大きい。

反共産主義。富の再配分を重視し、一般国民の賃金や生活の向上を目指す。

アメリカという国民国家を愛し、それゆえに、そこをより良い国にしようとする改良主義である。

主体となるのは労働組合。

 

新型は、マルクスの影響が大きい。

道徳的な完璧性を求め、政治的平等を重視する。

人種差別や女性差別を撤廃しようとするが、金銭について語るのを好まない。

奴隷制やベトナム戦争など、歴史の負の部分に注目するため、国民国家アメリカに対して批判的である。経済的には、アメリカ国内の不平等よりも国家間の不平等を問題視する傾向もある。

主体となるのは大学などの知識人。

 

20世紀前半、旧型左翼/労働組合は時に大富豪の社会主義者とも協力しながら、富の再分配・社会保障のための法律を作るなど、政治的な活動を大いに行いました。
そのおかげでアメリカの白人プロレタリアート(労働者階級)の中産階級化が進行。
「勤勉なアメリカ人夫婦はみな家を持つことができ、望むならば、妻は家庭にいて育児に専念できる」という社会的前提が出来上がったわけです。(当時、アメリカの実体経済が好調だったというのも大きいと思います)

 

しかし、このある程度の成功があったからこそ、旧型左翼は勢いを失っていった。

ポーランドの労組「連帯」の活動を描いた映画「ワレサ 連帯の男」でもありましたが、ある程度の賃上げ要求を勝ち取ると、団結ストしていた労働者たちはさっさと解散してしまう。もっと実現すべき要求がある、と言う委員長ワレサの声は届かない。やはり自分と家族が食うのに困らない、となると多くの人は政治活動への関心を失うのでしょうね。

 

 

それとは逆に1960年代以降に増した新型。

大学の知識人を中心とする彼らは、黒人、女性、性的マイノリティなどへの差別の解消、「ポリティカル・コレクトネス」の実現を目指しました。(著者のローティは彼らを文化左翼と呼んでいます)

彼らの努力は多大な成功を収め、アメリカは以前よりもはるかに、他人を侮辱したり不当に差別したりしない社会となりました。

 

一方で、この新型/文化左翼は国家に「道徳的完璧さ」を求めるタイプ。

奴隷制やベトナム戦争など、国家としての罪や欠点を責め立てます。大学教育などで「アメリカこそ、『邪悪な帝国』である」という認識が広まってしまう。(ある程度は「正しい」認識ではありますが) 

その結果、アメリカを嫌いになる国民が増える。自国という共同体に責任など持たなくなる。国家なんて、国境なんてなくなればいい、世界が、人類全体がより良いものとなればいいという思想が流行ります。

 

このような風潮と同時期に拡大して行ったのがグローバル化です。

アメリカ国民の雇用条件や社会保障は蔑ろにされ、労働市場は流動化。発展途上国の人々との「底辺への競争」に追いやられる一方、大資本家や国際上流階級の利益最大化が図られます。

 

ところが、この状況に対して新型左翼は何もできない。

それどころか、状況悪化を加速しかねない。

なぜなら、彼らは国民国家に対して冷淡。アメリカを「邪悪な帝国」と思っており、そこに暮らす国民よりも、「可哀そうな世界中の人々」の生活を良くするべきと考えている。

しかも、彼らの中心は大学などに属する豊かな知識人。一般労働者よりも、国際上流階級と親和性が高いので、むしろグローバル化を後押ししてしまう。

 

結果、国内の経済格差は拡大の一途をたどるわけですが……

この状況、日本にもよく当てはまるのではないでしょうか。

 

80年代までの日本の経済成長~一億総中流化で、左翼は本来の趣旨であった国民の生活条件の向上から、歴史問題や反原発、外国人差別などへ力点をシフト。大企業、資本家の短期的利益に有利、一般国民に不利な経済のグローバル化が推し進められるが……
国民国家/ナショナリズムを忌み嫌う左翼は、この状況に反対しない。

場合によっては共に推進の旗を振る。関税や法律、制度など、国民を守る「国家の壁」が次々に壊されて、外国人との「底辺への競争」を強いられる。(TPP、種子法廃止、外国人労働者受け入れ拡大などなど)

 

日本はアメリカの後追いをしてる感じですね。

グローバル化による悲惨な現状を少しでも好転させるには、どうするか。

 

著者のローティは次のように述べています。

 現在の文化<左翼>は、古い改良主義<左翼>の生き残り、特に労働組合との関係を切り開くことによって、自ら変貌していかなければならないだろう。現在の文化<左翼>は、侮辱のこと(※注 ポリティカルコレクトネス)を話題にしなくなるという犠牲を払っても、金銭問題をもっと話題にしなければならないだろう。(p.97-98)


上記以外のローティの論も参考に考えますと、日本の左翼に言うべきは以下のとおりかと思います。

 

身近なところで生活に困窮している同胞――日本人を助けたい気持ちがあるのなら!
現代日本の左翼は、何はともあれ、富の再分配・一般国民の生活向上・社会保障に目を向けなくてはなりません。
この点について問題意識を持つ人たちとはすべからく協力すべきです。歴史問題だのジェンダーだのといった事柄に対する認識の違いなど、無視してでも!です。
同じ日本人であるということは、そういった些細な相異を超える大きな共通項なのですから。

 

日本は完璧な国ではありません。歴史上、多くの罪や失敗を抱えてきましたし、現在それを重ねつつもあるでしょう。けれども、それを「公平な国際感覚を持つ傍観者」の視点で批判しても仕方ないのです。
左翼もまた、この国の歴史の上に生まれ、未来に責任を持つ国民です。
今あるものを一つ一つ改良し、積み重ねていく。
理想の国家の姿を目指して。

 

理想の国家の姿とは何か?
「国民誰もが安全に仲良く豊かに暮らせて、外国の強圧に屈しない、世界の手本となる国」というところでしょう。
これは歴代の天皇が祈ってこられた「国民の安寧」の実現でもあると思います。

 

では、「日本は世界に冠たる素晴らしい国だ」と信じる右翼はどうでしょう。
もちろん、日本には良いところがたくさんあります。
しかしながら冷静に現状を見るならば、歴代の天皇が祈ってこられた「国民の安寧」が完璧に実現していると言えるでしょうか?

 

経済において中国の後塵を拝し、それに比例して軍事力では大きく溝を開けられています。
在日米軍に安全保障を頼っているため、アメリカに追従することばかりで、自らの意思を貫けない属国と思われています。
公共インフラ投資が足りないため、高速鉄道網も高速道路網も整備が遅れており、中国やドイツに比べて情けない有様です。

 

こんなことでは「国民の安寧」を守ることができず、有事・震災の際には多くの国民が犠牲となり、天皇陛下もお嘆きになることでしょう。

 

やはり右翼もまた、「国民誰もが安全に仲良く豊かに暮らせて、外国の強圧に屈しない、世界の手本となる国」を目指して、一つ一つ努力を積み重ねていくしかないはずです。

そして目指すところは同じなわけですから、些細な相違には目をつぶり、協力する方が良い。

 

まあ、人間ですから小さなことが気になります。協力しようと近づくほどに相手との「同調できない点」に苛立ちます。でもそこをうまくやり過ごして、大義のために手を結ばなければ、政治的に大きなパワーは得られません。

 

左翼と右翼が歴史や文化の問題で争い、それがメディア劇場で炎上するのを見て一般国民が憂さを晴らす。それで得をするのは、国家の枠を超えたグローバル企業、超富裕層です。一般国民の眼を真に重要な問題からそらし、経済に関するコントロールを独占することができるのですから。

 

進撃の庶民が日々提言しているのは、この左翼も右翼も糾合する大義――「国民誰もが安全に仲良く豊かに暮らせて、外国の強圧に屈しない、世界の手本となる国」を実現する方法です。共に努力いただける方が増えるのを願っています。

 

最後に、『アメリカ 未完のプロジェクト』から以下の文を紹介しておきます。

p.55
「有効なことは(中略)それぞれの相違よりも、類似性を強調することである。マルクス主義が悩んだ党派的分裂は、完璧性を求める強い衝動の現れであるが、左翼はそのような完璧性を持たないほうがずっとうまくいくのである。」

 

同p.108-109
「私たちは、私たちが知っている現在のアメリカによってだけではなく、なってほしいと熱烈に願っている未来のアメリカによって、アメリカを説明しなければならない。私たちは、毎朝目を覚まして出会う国よりも、夢の国に忠誠を誓わなければならない。そのような忠誠がなければ、理想が現実になる見込みはない。」

 

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