とてつもなく重厚な布陣となりました。どうぞお楽しみください!
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以前、現代経済学の枠組みにおける不況論(クルーグマンのIt's Baaack論文解説)のコメント欄で有閑爺いさんと論争になったのだが、この際、現代金融制度に関する理解の不足が原因とみられる混乱が見られた。これは有閑爺いさんにとどまらず、世間一般でも理解の不足が問題になっており、それが各種経済論争で混乱や誤りを生む原因になっていることは常々に気になっていたので、ここのコラムでも論じておきたい。
ここで論じる内容は、拙記事として「金融・財政の基礎的理解」で論じており、その基礎から「”自由化されすぎた通貨供給”を国家化すべき理由 ―外部経済性を持つ財としての通貨」、「基軸通貨国アメリカが経常収支赤字を維持すべき理由」、「低成長経済における金融財政政策のトリレンマ」 (及び 成長批判のトリレンマ再訪)などの議論に発展しているので、興味がある向きは参照していただきたい。
さて、表題でも問題にしたが、我々が普段手にしているお金はどこからやってくるのだろう。
「当然、日銀である」といいたくなる気持ちもわかる。しかしそれは半分の正解でしかない。
というのは、日銀が現実に行っているのは、銀行保有資産を買い取り、銀行に日銀当座預金を与えることだけだからである。(この場合の銀行保有資産は、一般に国債になっている。自由に発行した国債によって中央銀行当座預金を供給する制度のことを管理通貨制度といい、金貨買い取りによって中央銀行当座預金を供給する制度のことを金本位制という。現代では前者が採用されている)
当然のことながら、銀行が日銀当座預金を潤沢に持っているだけでは、我々の手元の通貨が増えることはない。
そこで出番と相成るのが、信用創造である。
信用創造とは何か、という問いに関するwikipediaの説明はいたってシンプルでかつ正しい。
「銀行の貸出によってマネーサプライ(通貨供給量)が増加すること」
本当はwikipediaの説明が十分でかつわかりやすいのだが、敢えて論じなおすと、我々の手元に通貨が来る状況というのは、銀行が(貸出債権の代わりに)銀行預金を借主に与え、それが支出されるときだけなのである。
要するに、市中銀行からの借入だけが、唯一のマネーサプライ供給方法なのである。
このときに実際に起きている会計についても、wikipediaに記述されている。
『1. A銀行が、X社に1000円の貸し出しを行う。
2. X社の所有する預金口座に1000円が入金され、A銀行のバランスシートに資産1000円(貸付金)と負債1000円(預金)、X社のバランスシートに資産1000円(預金)と負債1000円(借入金)が同時に創造される。
3. A銀行は預金の増加に伴い、準備率にしたがって日銀当座に所定の準備預金を預け入れる。』
なお、3の準備預金調達についてだが、すでに十分に準備預金を保持している場合は必要にはならない。
気を付けてほしいのは、銀行が預金を創造するにあたって、銀行は何の資金拠出も必要ではないということである。よく、「マイナス金利によって銀行が持っている超過準備を吐き出させる」と言った論法が横行するのだが、銀行は貸出によって準備預金を減らすことはできない。むしろ、原理的には積み増す必要性が出てくる場合もある。
(日銀自身も、自HPのQ&Aで、日銀当座預金の機能が現金引出準備と対外決済手段である旨を記述している)
当然のことながら、銀行は無制限に預金を創造できるわけでもない。
預金は、いわば現金引出権と呼ぶことが出来るものだ。
したがって、預金は必要に応じて現金として引き出したり、他行決済や政府決済に用いることが出来なければならない。
銀行間決済や銀行-政府間決済は日銀当座預金で行われているから、預金者の対外決済が発生すると、銀行はそれを自行の日銀当座預金を用いて代行しなければならないのである。(預金の対外決済は、現金決済と似た側面を持っている。というのは、銀行が決済を代行する場合も、預金者が現金を引き出して直接決済を行う場合も、B/Sの動き、現金と預金の動きは全く同じになるからだ。)
このことから、銀行は、現金引出権としての預金が増えれば増えるほど、準備金としての日銀当座預金を多く準備しておく必要がある。
例えば、現金引出権のうち、同時に執行される現金引出・対外決済の割合が最大で一割なのだとする。
この場合、銀行は、自行が与えている現金引出権に対して最低でも一割の日銀当座預金を保有しておかないと、現金引出や対外決済破綻する危険があるので、銀行は自行の保有する日銀当座預金に合わせて、融資(預金創造=現金引出権創造)を絞らざるを得なくなるだろう。
裏を返せば、潤沢に日銀当座預金が与えられていれば、銀行はより多くの融資を行うことが”できる”。(必ずしも融資を行うとは限らない)
そして、その融資の総額は、日銀当座預金の総額よりも一般にははるかに大きくなる。たとえ現金引出権を大量に作り出したとしても、そのうち現金引出や対外決済に用いられるのはごく一部なので、銀行が保有しておくべき日銀当座預金は融資総額よりもずっと小さくてもいいわけだ。今のような異次元緩和の中でも、預金と日銀当座預金の間の差は数倍はあるだろう。
現代金融制度で我々が現金を得るには、上記で述べた預金創造(信用創造)が起き、それによって生まれた預金=現金引出権を用いて、現金を引き出さなければならないわけである。
忘れてはならない重要事項は、我々は決済を、現金だけでなく預金でも行っているという事実だ。
つまり、現金引出権だけで実物売買を行っているのである。
預金も立派な通貨なのだ。
日本は先進国の中でも例外的に現金決済の多い国だといわれているが、それでも預金決済のウェイトは極めて大きい。
すでに指摘したように、日銀当座預金は対外決済については必要になる。
ところが、銀行”内”決済では日銀当座預金は必要にならない。
例えば、三菱東京UFJ内で預金決済を行うなら、そこでは日銀当座預金やそこから引き出した現金などは全く必要にならないのである。銀行内で預金残高の数字が変化するにとどまる。
この意味で、預金は、現金引出権に過ぎないにも関わらず、明らかに”単独の”決済手段として成立しており、そのような事実に基づいて、マネーストック(マネーサプライ)すなわち通貨供給量は現金+預金と定義づけられるのである。
(なお、マネーストック統計における現金とは、民間や政府が預金引出によって得た現金であり、金融機関保有現金は除かれている。(参照:https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exms01.pdf) そもそも、銀行は保有資金をほとんど日銀当座預金として保有しており、現金として日銀当座預金から引き出してあるものは銀行資金全体に比べれば極めて少ないことには留意されたい)
上記議論を理解しておくと、リフレ派のようにベースマネー(日銀当座預金+現金)を増やせ、そのために量的緩和をしろ、という提言は、マネーストック供給に必要ではあっても十分でないことがわかるし、三橋貴明が言うような「借りて、使え」という提言は、「マネーストックを直接供給しろ」という意味に還元して理解することが出来る。
なぜベースマネーが潤沢でもマネーストックがそれに応じて増えていかないという事態が起こるのか、そもそも、なぜ人々はベースマネーやマネーストックを用いて取引を行おうとするのか、中央銀行制度が確立する前はどのような金融構造だったのか……これらに疑問の探求においても、上記コラムの理解を基礎にすれば、きっとスムーズかつ正確に進んでいくはずであるので、是非このコラムや先ほど挙げた拙記事が皆さまの経済理解の一助となれば幸いである。
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