社会批評としての建築 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム
水曜日は、みぬさ よりかず氏による経世済民・建築論です!


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経世済民・建築論『社会批評としての建築』

『50×50×50=12万5千倍の競争』


私は十代の頃にカーデザイナーに憧れていたのですが、高校生の時に進路について色々調べてみて厳しい現実から断念しました。

専門教育を受ける大学のデザイン学科の卒業生で、自動車メーカーに就職するのは1人いるかいないかで、そもそも入試も大変だが、その先の就職が、かなり難しそうだと分かりました。更に就職したデザイナーがクルマのごく一部分、例えばテールランプのデザインしか任されていないとの話を聞いて「夢が無いな」と思い諦めたのです。

つまり極端に表現すれば、入試50倍、就職50倍、仕事50倍、計12万5千倍!の競争を勝ち抜かなければ、生き残れない厳しい世界なのだと、当時は感じました。

ただ、後で社会人になって分かったのは、どの世界でも第一線で活躍する人の競争率は、同じくらい厳しいという現実でした。


『個人で仕事ができる』
『実力で評価される』
『人間関係に左右されない』


そこで建築家の道に進もうと思ったのですが、建築設計が良い点は、上記の3つだと当時は感じていました。

カーデザイナーの場合は、そもそも自動車メーカーなどに就職しなければ、デザインのチャンスが得られないが、建築家の場合は、自分で設計事務所を立ち上げれば、好きに設計が出来るだろうと考えたのです。

当時は東京都庁のコンペなどが実施されており、丹下健三氏が1500億円の仕事を獲得したりしていました。公開の場で評価され、実力でチャンスを掴める仕事だと思ったのです。

また設計は図面を書くのが仕事なのだから、黙々と職人的に作業をして結果を出せば良く、煩わしい人間関係に悩まされる事も無いだろうと想像しました。

このような考えから建築設計の道に進んだのですが、これが大変な間違いで、実際には、私の予想と現実は、真逆だったのです。


『建築は自分だけで作れない』
『誰に建築を学んだかが重視』
『コミュニケーションが仕事』


つまり漫画家や小説家なら成果物は自己完結出来ますが、建築家で自己完結出来るのは図面作成までで、実際に建物を作るのは職人さんです。これは小さな建物であっても貫徹されている基本中の基本のルールです。

また建築業界では、大学でどの先生に師事したか、実務をどの建築家の下で学んだかが非常に重視されます。建築デザインが、歴史の連続性の中で形作られてた以上、その人物を知る上で、系譜が非常に重視されるのは当然です。単純な実力勝負だけでは無いのです。

更に建物とは他者が介在する事で成立するので、資金を出すクライアント、建物を作る施工者など、他者との関わり合い、つまりコミュニケーション能力こそ、建築家の職能そのものといっても良く、職人的な作業は、仕事のごく一部に過ぎないのです。

考えてみれば、東京都庁のコンペに勝った丹下健三氏など、先に挙げたカーデザイナーの12万5千倍と同等の競争を勝ち抜いた人物であり、どの業界でも第一線で活躍するには厳しい競争が待っているのです。


『クライアントの資金と要望』
『敷地の周辺環境や法律』
『建物を作る施工者との関わり』
『その時の社会情勢』


そして実務において建築家に与えられる条件は、上記の四要素に大まかにまとめられます。そもそも依頼が無いと仕事が発生しませんので、どちらかというと、設計事務所とは、レストランに近いかも知れません。建築家とは、1年間にほんの僅かなお客しか来ないレストランのシェフみたいな感じでしょうか?

次に新築の建物なら、当然ながら敷地が存在し、周辺環境や各種法令などの制約が加わります。私が考える、良い設計、良い建物とは、敷地に関連する周辺環境の読み込みが見事なケースです。

更に実際に建物が作られる際には、誰かに作って貰うのですから、施工者との関係性も建物の質を左右します。当然ながら、建物が作られる社会情勢とも無関係ではなく、大きな影響を受けます。


『社会批評としての建築』


このような背景から生まれた、建築の魅力とは何か?と問われれば、私は優れた社会批評性だと考えています。施主の要望、場所性や法令、施工者の能力、社会情勢など複雑に絡み合う中で、答えを探すのは、結局、今の時代や社会とは何かと探求するのと同じです。

例えば、ある種のプロパガンダによって、社会に色を付ける事は可能ですが、様々な現実社会の要素が、試行錯誤の末、ギリギリのところでバランスを取って、形作られた建物は、作者の意図とは別に、その時の世の中を意図せず表現してしまうのです。

これは建築に限らず優れた創作物に共通する要素ですが、建築設計の場合は、建物が、ある意味で社会そのものという点から、社会批評性が、より強まってしまうと感じています。



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