学参文法書では「品詞」という概念は必須のものとして扱われています。一方で現代英語の文法的仕組みとして語順と並んで重要な概念「機能語」は文法説明に用いられていません。学校英文法には機能語、内容語という視点が欠けていることを示しています。

 現状の品詞見直しの必要性、多くの専門家に指摘されてきました。そのいくつかを抜粋要約して紹介していきます。

 

「言語記述の方法としての英文法の歴史は、E. A. SonnenscheinのA New English Grammar に代表されるような、ラテン文法を基礎としたこのような伝統文法規範の枠から出て,如何に科学的に英語という特定言語そのものに即した記述をするかをめぐって展開されて来たと言える。

. 我々の観察の対象は,性(Gender),格(Case),法(Mood),時制(Tense),態((Voice)などが総て語尾屈折(Inflexions)で示さていた綜合的言語 (Synthetic Language) であるO.E.ではなく、そのような語相互の関係が機能語 (Function-word)と呼ばれる一連の語によつて示され,ほとんど Inflexions によらなくなった分析的言語 (Analytic Language) であり、時には語順だけに頼る孤立語(Isolating Language)にも近い Mod.E.であることへの認識が必要である。

 名詞,人称代名詞,動詞,及び形容詞,副詞の一部などは語形によったものであり,その他の品詞は連語上の機能によるもので、しかもそれらが同一平面上に論じられているところに問題を有していた。また例えば, The book on the desk is mine.の on the deskが形容詞句であるとするのも,実は -er,-estという比較語尾をもつ形態的機能によった「形容詞Jなる術語を統語的機能である句 (Phrase)に適用したものである。

 言語の記述は当該言語に即した方法を採るべきであり,英語の記述に当たってはラテン語文法やギリシャ語文法から独立し、また英語を異国語として学ぶ当該国民の言語的立場から記述されるべきである。」

  信原 修『品詞分類の基準について―Jespersen の文法理論を中心に―』1964

 

 この論文は1964年のものですが、現代でも状況はほとんど変わっていません。屈折によって単語の品詞を示していた古英語(O.E.)とは異なり、屈折を失って語相互の関係を機能語で示す近代英語(Mod.E.)の文法的仕組みを、品詞という概念を借用して説明するのは困難なことなのです。

 英語の品詞分類は、元々全く文法的仕組みが異なる言語の論理を、機械的にあてはめて決められました。

 

「最初の英文法書であるブロカー(William Bullokar, ?1513-1609)の Pamphlet 

for Grammar(1586)では,名詞・動詞・分詞・代名詞・副詞・前置詞・接続詞・間投詞の8品詞が認められている。現代の英文法との明らかな違いは,形容詞が独立した品詞として認められていないことである。

 ギリシャ語およびラテン語文法では,形容詞は名詞と形態変化が似ていることから名詞と同じカテゴリーに入れられ,その下位分類として,noun substantive(実詞)と noun adjective(形容詞)とに分けられていたのである。英語では17世紀末のレイン(A. Lane, fl . 1695―1700の A Key to the Art of Letters(1700)あたりから,形容詞が独立した品詞として認められるようになっていく。」

  宮脇正孝『動き出した品詞論―18世紀後半の英国の場合―』2013

 

 主要8品詞の中には、全英単語中再頻出のtheを含む冠詞が入っていません。屈折が主要な文法手段であるラテン語では、屈折しない機能語が未発達で、その文法機能を説明する必要がなかったからです。ラテン語の名詞、代名詞、形容詞の屈折を比べるとその類似性が分かります。

 

【ラテン語の文法】 格、活用型だけで以下のように非常にたくさんある

          不規則変化はほとんどない(文法・発音とも例外はまれ)

 

名詞 :男性・女性・中性 単数・複数 主格・属格・与格・対格・奪格・呼格

    第1変化、第2変化、第3変化

      冠詞は存在しない。定冠詞は関係代名詞で表現。

代名詞:男性・女性・中性 単数・複数 主格・属格・与格・対格・奪格・呼格

形容詞:男性・女性・中性 単数・複数 主格・属格・与格・対格・奪格

    第1・第2変化、第3変化 原級・比級(比較級)・優級(最上級)     

  ITO Kei『学術ラテン語最小限マニュアル』1999

 

 本来、名詞とは数・性・格などを屈折によって表示するギリシャ語、ラテン語の文法的仕組みにもとづいた概念です。ギリシャ語、ラテン語の形容詞は、名詞の性質や状態などの特性を示す働きをする語で、その形態も修飾する名詞に合わせて似たような語形変化をしたので、独立した品詞とはされませんでした。英語の品詞分類は、屈折言語の分類をそのままあてはめて創られたのです。

 

 英語では主に名詞として使われていた単語でも、SVOという配列のVの位置に置かれると動詞ということになります。主に動詞や形容詞として使われている語も、冠詞a theに後置されると名詞になります。

 

「英語では多くの語に複数の文法機能が備わっている。例えばhammerという語は、John hit the nail with a hammer.のように名詞として使われることもあれば、John hammered the nail.のように動詞として使われることもある。」

  木村 卓人『英語品詞転換の定義と適用』

 

 この記述では、内容語のhammerに文法機能が備わっているとしています。しかし、この見方は、機能語が発達した歴史的事実に反します。内容語が屈折という文法機能を失ったから、代わって一部の内容語が文法化して文法機能を担うようになったのです。現代英語では、機能語と語の配列に文法機能が備わっていると見る方が妥当でしょう。

 with a hammerではwith、aという機能語との配列からhammerは名詞だと分かります。前置詞、冠詞は後置する語が名詞であることを示す標識とみなすことができるのです。また、John hammered ~では、V述語の位置にhammerが置かれていることから動詞と分かります。定型化した文の構造の配置に文法機能が備わっていると言えます。

 

 品詞という概念は、主に(a)屈折など語形変化による形態、(b)名前、性質、動作など語の意味特性、(c)文の要素や修飾などの機能、の3つに大別できます。内容語自体が屈折して品詞を表示する仕組みの言語では、基本的に(a)、(b)、(c)が一致します。単語に決まった品詞があり、単語ごとに分類できるというのは、屈折という形態で品詞を表示する仕組みのラテン語などの屈折言語の発想です。

 一方、英語は機能語が発達し、配列によって内容語の文法性(品詞をふくむ)示す文法的仕組みの言語です。屈折を失い無標になった英単語は、品詞という尺度でみると、(a)、(b)、(c)は一致せず曖昧ということになります。見方を換えれば、英単語は使用制限が緩く自由度が高いと言えます。

 

屈折語の判断基準に基づく伝統的品詞「分類」による英語の品詞説明は、理論的に無理があり、EFL(English as a Foreign Language)学習者には混乱をきたすのみである。英語は一つの形で様々な品詞たる可能性を持つからである。

1)a. Am I making myself clear? (形容詞)

 

 b. Can anyone suggest a good, clear, easy beginner's book to the

  Kabbalar?(形容詞)

 

 c. He had time to get clear away.(副詞)

 

 d. Carolyn cleared the table and washed up.(動詞)

 

 とはいうものの、語順によって文法・意味関係を表す英語においては、全く品詞の概念なしには正しい文の構築は望めない。

 学習者が品詞を理解するのに困難さを伴う原因はいくつかある。言語間のシステムの差異は一対一対応ではないという理屈がわからないということ、英語は語順で単語間の文法関係を表す言語であるということが理解できないこと。そして最大の原因は、未だ適切な品詞論が確立されていないことにある。英語という言語における形式と品詞の不一致を見ても明らかだが、品詞は分類されるのではなく「分布」しているものである。

  平岩 加寿子『学校文法と品詞分布―5文型を中心に―』

 

 上の論文にある用例(1a~d)のclearは、同じ語形なので(a)形態では品詞はきまりません。基本的に(c)機能が重要になります。

 

(1a) 私の言っていることはわかりますか?

[make+O+C]という文型のC補語にあたる位置にあり、myselfという(代)名詞の状態を叙述していることから形容詞とされます。

 

(1b) 誰かカバラの良くて、わかりやすくて、初心者向けの本を紹介してくれませんか?

[a … clear … book]という句で語の配列から、名詞bookを修飾している形容詞とされます。

 

(1c) 彼には完全に逃げ切れる時間があった。

[get away]という動詞句を修飾していることから副詞とされます。

 

(1d)キャロリンはテーブルを片付けて、洗い物をした.

[S+V+O]という文型のV述語の位置にあることから動詞とされます。

 

 SVC、SVO文型のS, Oに置かれていれば名詞、Vに置かれていれば動詞、Cに置かれていれば名詞、形容詞などになるとされます。

 ラテン語の仕組みからも分かるように、伝統的に名詞と形容詞は関係が深いとみなされています。名詞を修飾する、あるいは名詞の状態や性質を叙述する働きをする語句を形容詞とします。

 副詞はadverbという言うように、動詞verbを修飾するというのが第一義です。細かい分類で煩雑になることを避けて、便宜上その他の修飾語句を含めてみな副詞ということになっています。修飾関係では、形容詞は名詞専属で、副詞は動詞やその他名詞以外を兼用した修飾語といったところになります。

 

「品詞論はことばを機械に似せて理解する言語観による。例えば,自動車は様々な部品(parts)からなるが,車は部品をただ寄せ集めたものではない。それぞれの部品には車の中で置かれるべき「正しい位置」というものがあり,正しい位置に取り付けなければ,その部品は全体の中で機能せず,結果的にその車は動かない。類比的に,ことば/文(speech)は有限の部品からなっているが,その部品は文の中で正しい位置に置かれなければ,その部品は機能せず,結果的に文は意味をなさない。まさしく「品詞(parts of speech)」とは,「ことば/詞(speech)」の「部品(parts)」である。

 (英語では)ある語に対してその品詞の指定は先験的に決まっているわけではない。品詞概念は節構造の位置の概念を言い換えたものに過ぎないからである。言語実態として一つの語形が様々な位置で使われる。」

  澤田 茂保『話しことばでの機能語類連鎖の働きについて』2023

 

 品詞はparts of speechの訳語で、品詞の品は部品に由来するものです。単語を文を組み立てるための部品ととらえ、屈折によって部品の使い方が指定されていると考えるのが品詞という概念です。

 ところが、無標の英単語は用法が比較的自由で、機能語と語の配列という文法手段を使って容易に品詞の壁を越えます。それは単語に限らず、句や節の働きにも当てはまります。

 

「葛西(2003)は、品詞分類の難しさを示す例として、同一の形式 under the desk に関し、以下を挙げている

2) a. I put the book under the desk. [副詞]

 

  b. The book under the desk is not mine. [形容詞]

 

    c. Under the desk is a nice place for a cat. [名詞]

 

    d. The cat came out from under the desk. [名詞]

 

 葛西によれば、下線部 under the desk の品詞は、斜体(イタリック)部分との関係により決まる。例えば、(2a. b)では斜体部を修飾しており、(2d)は前置詞 from の目的語である。また、(2c)は文の主語であり、文の主語となるのは名詞の働きであることから品詞が決まる。

 林 智昭『文法指導における内容語・機能語導入の試み―発音・意味の観点から―』

 

  (2c)は専門家の間では前置詞句主語構文と呼ばれます。品詞を先験的に用法が指定された部品ととらえる人は、S、Oという文の主要素になるのは名詞という部品だと考えます。同時に前置詞句は主要素の名詞にはならないと主張することがあります。

 

「いわゆる5文型は,Onions(1904)では「述部 の5形式」(five forms of the predicate)という言い方で現れる。5文型の原型である「述部の5形式」は,学校教育で用いる文法用語の簡素化と統一を目的として設立された文法協会が,文分析の枠組みの一つの柱として考案したものである。実際にこの5形式を使っている文法書ということになると,英文法では Cooper and Sonnenschein(1889)が最初のものである。Onionsに15年先行していることになる。

 ……統語論を説明するために有用な用語として「相当語句」 (equivalent)が挙げられている。たとえば,cannon ball における cannon を「形容詞相当語句」,Old and young join in his praise. における old と young を「名詞相当語句」とするなどである。

 ……「相当語句」も, 述部の5形式の場合と同様に,Onions(1904)にそのまま採用されている。」

 宮脇 正孝『5文型の源流を辿る』2012

 

  「文分析の一つの柱として考案したもの」とあるように、文型は分析法であってルールではありません。 そもそも文型は、品詞では説明できない英文を分析するために、語順を文法機能と考えるSweetに触発されたOnionsらが創作したのです。文型の設計思想は、単語に文法機能が備わっているわけではなく、語順に文法機能があると考えることにあります。 

 5文型を考案した先達は「oldとyoungを名詞相当語句」としていることが、その本質を示しています。文型という分析法では、SVのSの位置にある語句を名詞の働きをしていると分析するのです。

 

  to不定詞句は名詞を修飾すると形容詞的用法、動詞の目的などを示すと副詞的用法、そしてS、Oに置かれると名詞的用法とされます。この不定詞形成のtoは元々前置詞toが文法化して後置する語を不定詞とする標識になった機能語です。歴史的に言っても前置詞句は名詞の格を示す標識にもなるので、前置詞句が主格になることは不思議なことではありません。

 文法を規則ととらえ、そこから外れた単語や語句の用法を排除しようとするのは、ラテン語文法を理想的な言語のあるべき姿とする規範文法の発想です。学校文法は規範文法を学習用に転用して創作されたので、その発想を受け継ぎ、品詞を厳格に守ろうとします。英語話者は、公的な場では品詞の用法を守っていたとしても、ふだんの口語では英語本来の伝わる仕組みを使って言葉を紡ぐので、容易に品詞転換がおきます。

 

 現代英語の品詞は、単語の属性や用法を指定する規則というより、英文の分析に使うツールと見ることができます。(a)屈折など語形変化による形式、(b)名前、性質、動作など語の意味特性、(c)文の要素や修飾などの機能の3つを柔軟にとらえます。

なかでももっとも重要なのは(c)です。(a)、(b)は辞書の品詞の位置づけを理解することにつながります。

 辞書の多くは伝統文法の分析の仕方にもとづいて単語の用法に応じて品詞表記をしています。形容詞の用法分類は100年以上前に作られた文法に基づきます。当時の文法書と国産の辞典から抜粋して引用します。

 

 There are two different ways in which an Adjective can be used―

(a) the Attributive, and (b) the Predicative.

 

(a)  Attribute use―An adjective is used attributely, when it qualifies 

  its noun directly, so as to make a kind of compound noun.

    A lame horse.   A noble character   A true tale

 

(b)  Predicate use―An adjective is usd predicatively, when it qualifies

   its noun indirectly.

          That horse went lame.   His character is noble.

   ――J.C. Nesfield『Manual of English grammar and composition』1908

 

 Attributive【形、名】属性的。❷[文]形容言(的) “An old man”の“old”はAttributive(形容言)なり、“the man is old”の“old”はPredicativeなり

 

  Predicate【名】[文法] ( Subjectに對し)賓辭、叙述言、叙述部

    ――斉藤 秀三郎『熟語本位英和中辞典』1918

 

 限定用法というのはAttribute useの訳語です。attributeは「割り当てる、帰属させる」という意味なので、修飾する名詞の属性を決める(限定する)という働きと言えます。Nesfield1908には「形容詞が直接名詞を修飾して、一種の複合名詞を作る」とあります。[形容詞+名詞]の型は一体となって1つの名詞とみなしうるという踏み込んだ説明になっています。

 叙述用法はPredicate useを和訳したものです。Predicateは文の述部を意味します。文型を5つに類型化することを広めたOnionsの文法書をみると、その位置づけが分かります。

 

 この表ではSVOXという文型のSをSUBJECT(主部)、VOXをPREDICATE(述部)としています。述部を構成する要素XをPredicate Adjective(叙述形容詞)、Predicate noun(叙述名詞)としています。Onionsの5文型ではComplement(補語)という用語を使っていません。斉藤1918でも「“the man is old”の“old”はPredicativeなり」とあるように述部を構成する要素ととらえています。

 

 述部の要素XをComplementとしたのは、当時の文法家でわが国の学習文法に影響を与えたHenry SweetとJ.C.Nesfieldらです。Complementは意味内容が希薄になった述語動詞(存在を意味しないbeや作るを意味しないmakeなど)を補完して完結したcomplete意味を成す述部にするという意味合いです。

 形容詞は文の主要素S/Oを前後から直接修飾する働きAttributiveと、文の述部の構成要素となってS/Oを叙述する働きPredicativeがあるととらえます。文型の主要素S/O(名詞的要素)との関係性が深いと解釈できる語句を形容詞(的)用法とみなすのです。

 

 swimmingという語を例に辞書などの伝統文法に基づく分析の仕方を見ていきます。

 

3) a. Boaters save a swimming bear with a plastic tub stuck on his head.

      ――X(SNS)

   (ボートに乗っている人たちが、頭にプラスチックのバケツがはまった状態で泳い

   でいるクマを救出した)

 

  b. This school doesn't have a swimming pool.

    (この学校には水泳用のプールはありません)

 

  これらの用例では、swimの変化形であるswimmingという同じ形態の語が使われています。 (a)単語の形態では品詞分析ができません。(b)意味特性と(c)機能によって分析することになります。

 (3a)のswimmingは、「泳いでいる」という状況を意味しています。a swimming bearという(c)配列から名詞bearを修飾しているとはいえますが、(b)意味上は熊の属性を示すものではありません。このswimmingは分詞の形容詞用法とは言えても純粋な形容詞とはみなさないことになります。

 (3b)はa swimming poolという(c)配列でbearを修飾しています。さらに(b)意味から分析すると、poolは水を貯めるもので、swimming poolは水泳用、water poolなら貯水用というようにpoolの属性を示していると見ることが出来ます。(3a)を(純粋な)形容詞adjective、(3b)は分詞present participleの形容詞用法と区別する辞書は、(b)意味上の区別に基づいていると考えられます。

 

 一方で、LDCEではswiming poolをnoun名詞と表記しています。swiming poolは、Nesfieldの記述にあった「一種の複合名詞」を作る用法とみなせます。同じ[swimming+名詞(noun)]の配列でも、swimming suit(水着)、swimminng class(水泳の授業)なども「一種の複合名詞」を作る用法とみなせます。-ing語尾の語は形容詞的に働けば分詞ですが、名詞的に働けば動名詞と呼ばれます。複合名詞と解せる場合、swimingは動名詞だとする人もいます。

  swimmingには、動詞の持つ動的な性質を残した用法から、複合名詞を作るような静的な性質の名詞的な用法まで、実際に用法とその解釈に幅があることが分かります。英語の品詞には明確な定義がありません。だからそれぞれの人によって定義次第で解釈が変わるのです。

 

 次に述部の構成要素として使われているswimmingの用例を見てみます。

 

4) c. Roughly a 16-hour workday today, my head is swimming. ――X(SNS)

  (今日はおおよそ16時間も働いて、あたまがくらくらする)

 

 d. My favorite sport is swimming.

  (私がもっとも好きなスポーツは水泳です)

 

  (4c)は、主部[my head]、述部[is swimming]と分析すると、swimmingは述部の構成要素として主部の名詞の状態を叙述していると言えます。ウィズダム英和辞典では、形容詞と分類し,「頭がふらふらする(dizzy)」という意味を付しています。

 Cobuild(CCED)ではverb(動詞)と分類し次のように説明しています。If your head is swimming, you feel dizzy.つまり動詞の進行形(分詞)としています。

  (4d)は、主部[my favorite sport]、述部[is swimming]と分析すると、swimmingは述部の構成要素]として主部の名詞について叙述していると言えます。補語Cには、Predicate Adjective(叙述形容詞)、Predicate noun(叙述名詞)があるので品詞は構造だけでは決まりません。これは構造が同じMy favorite sport is basketball.と置き換わることから、swimmingはbasketballと同じ名詞と分析することができます。

 

 構造的には同じ述部[is swimming]を構成する要素でも、swimmingの品詞は主語との関係性などを考慮して、動詞的(分詞)、形容詞、名詞という解釈がありえます。(a)形態、(b)意味、(c)配列(構造)という基準で分析しても、時には分析者の解釈次第で変わることもあります。英単語の品詞は明瞭ではない場合があるので、一つの正しい答えを求める類のものではないことが分かります。

 swimmingという動詞から派生した語尾をもった語でも、辞書により純粋な名詞、形容詞とする解釈があります。言葉は、一般的な使い方ではなくても、話し手がメタファーによって用法を創造し、聞き手が想像力によって解釈すれは伝わります。新たな用法が社会的にどの程度認められかは場合によりますが、長いスパンで見れば言葉は変化するものです。

 

 屈折という比較的安定した品詞表示の標識を失った英単語は、機能語と語の配列によって様々な用法に使われます。現行の学習文法は、言語変化という視点を欠き刹那の現象を規則であるかのように説明する傾向があります。

 「awakeやaliveなどのa-という接頭辞が付いた形容詞は叙述用法にだけ用いられる」という説明がされることがあります。このような規範的規則を模した説明は、「限定方法には用いられないという禁止ルール」に転嫁しかねません。

 

5) The last person alive struggled to find food and shelter.

 (最後の生存者は、食べ物と避難場所を見つけるのに苦労した。)

 

 この用例では形容詞aliveは後から名詞personを修飾する限定方法です。the only person alive、the luckiest person aliveのように名詞personの前に最上級などの限定性強い語がある構造で、名詞の後から単独で修飾する用法がよくあります。

この類の形容詞の接頭辞はa-は中英語ではもともと前置詞で on liveのような型だったとされています。前置詞句はふつう名詞を後から修飾します。先に挙げた(2b) The book under the desk is not mine.では前置詞underを標識とする句(前置詞句)は後から名詞bookを修飾します。

 句や節(2語以上のまとまり)では名詞を後ろから修飾します。aliveはa-live(on live)という昔の痕跡から前置詞句のように、後から名詞を修飾すると考えられます。

 

 an awake personという語順の用例は口語に近いSNSではよく見かけます。

6) I wish I was an awake person.

  (わたしがちゃんと起きていられるといいんだが)

 

 接頭辞a-が付いた形容詞としてよく使う語は、述語を構成する要素として使うのが主要な用法であることは確かです。しかし、その理由に言及しない規則では、言語変化に対応できません。文法説明は抽象的なものではありますが、語法へつなげることは大切でしょう。個々の語法は変化するものととらえ、情報更新が必須です。

 

 

 また、「certainのように、形容詞には限定用法と叙述用法で意味が異なるものがある」と説明されることがよくあります。

 叙述用法ではふつうは「確かだ」「確実だ」という意味で使います。しかし、限定用法では、修飾する名詞の違いで意味に幅があります。日本語でも「確かに~と言った」と「確か~とか言っていたなあ」とでは確かさがずいぶん違います。

 

7) a. There is a certain Mrs. Myles on the phone for you.――LDCE

  (マイルズさんとかいう人から電話です)

 

 b. I have certain evidence regarding the matter.

  (私はその件についての確かな証拠を持っている)

 

  (7a)は「不確か」であることを含意していますが、(7b)では叙述用法と同じく「確実」という意味です。同じ限定用法であっても修飾する名詞との関係性によって意味に幅があります。叙述用法で単純に意味が異なるというものではないでしょう。

 

  受験英語にみられる説明は、過度の単純化規則が当たり前のようになっていると感じます。先人が築いてきた伝統文法の主旨から外れるもので、学習者に1つの正しい答えがあるかのように錯覚させ、後になって「英文法には例外が多い」とか言われるもとになります。

 英単語は、品詞という枠にとらわれずに自在に使い回されます。その時に意味の違いが生じるというのはあり得ることです。

  例えばpresentという語は、pre(前に)sent(存在する)という意味をコアとします。

 (ⅰ)目の前に在る(現に在る)⇒現在

   (ⅱ)目の前にいる⇒出席している

 (ⅲ)人前で渡す⇒(正式な場で)贈呈する

 空間的なイメージを、メタファーによって時間的に捉えたり、物理的な行為に使ったりするのです。SVCのCの位置で使ったり、SVOのOの位置で使ったりするときに意味の違が生じることはあります。それは、形容詞の用法という狭い視野でとらえるより、英語という言語の文法的仕組みとして広い視野でとらえ、一貫した原理で体系化して示すのが文法の意義ではないかと思います。

 

8) Her presence was keenly felt even though she wasn't physically

   present.

  (彼女が物理的にはいなくても、その存在感は強く感じられた。) 

 

 presentを文脈によって「出席する」と翻訳することがあるのは日本語の都合であり、英語本来の意味meaningではありません。使い回しの効く単語は訳語で意味を捉えるよりコアで捉える方が、presence(目の前に姿を現すこと)⇒存在感、presentation(人の前で提示する)⇒プレゼンテーションのように表現を広げることができると思います。

 

 品詞parts of speechは、単語を文speechを構成する部品partsに見立てたものです。ラテン語の単語は使い方を指定する屈折という標識が付いた有標markedの部品です。英単語は使い方を指定する屈折という標識が無い無標unmarkedの部品です。

 規範文法には、広く一般に通用する共通語を維持するという正当な理由があります。その一環として、品詞を単語の使い方を指定し言語変化を抑止するものととらえるのは、方策として理にかないます。それは今日の標準英語に成果として現れています。

 1つの正しい答えを採点基準にしようとする今の受験英語は、規範的規則やそれに類する単純化規則を志向します。品詞は英単語という部品の使い方を制限するものという発想は、不幸にも、英語本来の言葉が伝わる文法的仕組みとは相反しています。また、言葉が変化するものであるという事実からも離れるものです。

 

 品詞という概念が広く長く使われてきたのは、学習者よりもむしろ指導者にとって、有用性や使い勝手の良さがあったからでしょう。かつての品詞見直し論には分類の仕方を変えるものがありましたが、それよりはむしろとらえ方を変えて利用するという手もある気がします。

 現代英語は、機能語の利用と語の配列によって無標の部品を自在に使って文を組み立てる仕組みです。文型や構文といわれる機能語を骨格としたフレームが定型化し、その部品として比較的自由に単語を使い回します。

 

 英単語には使用が限定的なものから汎用性が高いものもありますが、英文法本来の仕組みからも、また品詞転換が頻繁に起きてきたという事実からも、一般的に可変性が高いことに変わりありません。品詞は単語の属性によって分類されるというよりも、使い方に応じた用法ととらえることができます。

 無標の基本的な英単語の多くは、動詞用法verbal use、名詞用法nominal use、形容詞用法attribute use など汎用性が高いと言えます。そういう意味では平岩の指摘は言い得て妙だと思います。最後に再掲しておきます。「品詞は分類されるのではなく「分布」しているものである。」