英語学習者は、ネイティブなら能動文を使うところを受動態を使う傾向があり、その現象は過剰受動化と言われます。例えば、「They move the sone easily.という文を、the stoneを主語にして書き換えて」と言われたとします。このとき、即座にこの文をThe sone is moved ~のように受動態を使おうとする人は過剰受動化の傾向があると考えられます。

 意味上の違いは別にして、英語にはThe stone moves easily.という表現があります。この文は形態上は能動態ですが受動的な意味を帯びます。このように形式上の態と意味上の態が異なる文を中間態と呼ぶことがあります。

  従来の文法参考書の「態」という単元で扱ってきたのは、形式上の態と意味の上の態が一致した能動態と受動態の2つです。中間態を加えて体系化することは、学習者の過剰受動化を抑えて、英語ネイティブの感覚に近づくことにつながるのではないでしょうか。

 

 中間態についての論文の記述を紹介します。

 

「英語の構文には,(1a) のように受動態で表す形式と,(1b) のように,統語上は能動態の形式であるが,(1a) と意味において何らかの一定の関係が存在していると考えられる意味上は受け身を表す構文が存在する。

 

1) a. The book is sold well.

 

     b. The book sells well.

 

 (1b) のような構文は,従来は Jespersen (1927) に基づいて,能動受動態 (activo-passive) と呼ばれていた。しかし最近ではこのような構文は,中間構文 (middle construction) と呼ばれることが多い。

 中間構文に用いられる動詞には次のようなものがある。

bake, catch, compare, cook, cut, eat, feel, keep, lock, read, rent, sell, tear, wash, wear」

  萱原 雅弘『中間構文に関する通時的考察』2006

 

 一般的に英文の型は動詞を中心に扱います。中間態を動詞の特性によって分類した論文から引用します。

 

「英語の中間態で使う動詞をタイプ A、タイプ B、タイプ Cに分類する(タイプ A、B は、動詞の形が能動態で意味が受動、タイプ C は、動詞の形が受動態で、意味が能動)。

 

[タイプ A 動詞:wash, read, write, sell, cut, peel, drive, handle, press, wear, break, photograph, translate 等]

 

2) a. The book sells well.(その本はよく売れている。)

 

  b. This razor cuts well.(このカミソリはよく切れる。)

 

    c. This sweater washes easily.(このセーターは簡単に洗える。)

 

    d. The article reads well.(その記事はよく書けている、その記事は読んで面

       白い。)

    e. Ripe oranges peel easily.(熟したオレンジの皮は簡単に剥ける。)

 

[主なタイプ B 動詞:look, seem, sound, taste, smell, feel など]

 

3) a. This woman looks happy.[能動態で受動的意味]

 

     b. The spoon felt heavy.(そのスプーンは重く感じられた。)

 

[タイプ C-1動詞:surprise, interest, worry, disappoint, amaze, bore, tire, amuse, confuse, excite, puzzle, satisfy, irritate, frighten, embarrass 

など]

(動詞の形が受動態で、意味が能動的、感情を表す)

 

4) a. I am surprised at the news.

 

    b. He is interested in history.

 

    c. I was disappointed with the result.

 

[タイプ C-2動詞:head, marry, bear, raise, kill, injure, hurt, locate など]

(動詞の形が受動態で、意味が能動的で、感情以外を表す)

 

5)a. The car was headed for New York.(その車はニューヨークに向かった。)

 

   b. I was born and raised in Paris.(私は生まれも育ちもパリだ。)

  古賀 智久『中間構文に関する一考察』2019

 

 この分類にあるタイプは、従来の文法ではいくつかの単元にわたって扱われています。タイプB動詞は、基本5文型のうちの1つとして第2文型と呼ばれます。タイプC(1,2)は受動態のうち、能動的に訳される文として扱われます。

 タイプAは用例(2a~e)にあるように[自動詞+副詞(well、easily等) ]が典型になります。他のタイプに比べると扱いが小さいのではないかと思います。このタイプの文の特徴を見ていきましょう。

 

 形態的特徴としては、well, easily, better, smoothly, heavily, sooner などの副詞とともに用いられたり,will not, will neverとともに用いる(芦原2006)ことが知られています。

 意味上の特徴は典型的な用例を集めると容易に分かります。

 

6) a. This shirt washes easily.  このシャツは簡単に洗える

 

    b. This kind of glass breaks easily. この種のグラスは割れやすい

 

    c. Milk chocolate melts smoothly. ミルクチョコレートは滑らかに解ける

 

    柘植 美波『英語の中間構文における被影響性と形容詞的過去分詞性』

 

7) a. Tennis balls sell best in summer.  テニスボールは夏によく売れる

 

    b. The beef is roasting nicely on the spit. 串刺しの肉が美味しそうに焼けて

       いる

    c. The two editions of the book read differently. 2つの版に違ったところが

     ある。

  ――江川2003

8) a. The new Ford is selling badly.  新型フォードは売れ行きが悪い

 

  b. Clay shapes well.  粘土は変形しやすい

 

    c. Math theses type slowly.  数学の論文はタイプするのに時間がかかる

    ――安藤2005

        古賀 智久『中間構文に関する一考察』2019

 

 これらの用例に共通する意味上の特徴は、総称的なものについて一般的な傾向について述べていることです。

 例えば、(6a)のThis shirt washes easily.は、ここにある特定のシャツというより、この種のシャツという意味合いになるということです。現在時制であることも一般的な傾向であることを示唆します。

 

 形態上の特徴の1つにwill(not)と共起することがあるとされます。それは、習性のwillという一般的傾向を述べるという意味上の特徴に関連していると言えます。

 

9) a. This cathedral will destroy easily. ――谷口1994

 

  b. The hollow-ground blade, made from chrome-plated carbon steel, will cut cleanly through branches of up to three-inches in diameter.

――BNC

(中空研ぎされた刃は、クロムメッキされた炭素鋼で作られており、直径3インチまでの枝をきれいに切ることができます。)

 

 また、このタイプの中間構文は、単純過去形にすると非文になるとされることがあります。その理由も意味上の特徴として、時間に関係ない一般的な傾向を述べる表現であることから説明が付きます。

 

 この中間態に使われる動詞は実際には結構多いという指摘もあります。

 

「以下に挙げる動詞は、常に中間態を用いられるわけではなく、またこのリストにない動詞でも条件が揃えば中間態で用いることができることは注意しなければならない。

act,adapt,add up,adjust,anneal,assemble,astonish,bake,baptize,blow,bribe,broil,button,cancel,cast,catch,chew,circulate,clean,compare,compose,construe,convert,convince,cook,cover,crush,cut,dance,decipher,develop,dice,digest,discourage,draw,dribble,drink,end,exchange,fasten,feel,fish,fix,fold away,foldup,freeze,frighten,frustrate,fry,grind,handle,hook,hurt,intimidate,iron,kill,knot,launder,lay,let,lift out,listen,mold,mulch,pack (up),paint,peel,photograph,plant,play,plug in(to),polish,press,print,proofread,pull out,put up,read,recycle,refrigerate,rent,ride,rhyme,roast,row,rub,saw,scale,scan,scare,screen,seduce,sell,serve,shift,ship,show,slice,smoke,solve,spoil,spray,stain,steer,steam,strike,surprise,swallow,take,teach,televise,train,transcribe,transfer,

translate,transmit,transport,transplant,transpose,trim,type,wash,wax,wipe (up),write

(古賀2019)

 

 この動詞のリストにある動詞からannealの用法を検証してみます。

annealの語義:to make metal or glass hard by heating it and then alowly letting it get cold. (LDCE)

 

例文(ChatDPT)

  The process requires heating and then slowly cooling the material to anneal it properly.

 

 下の中間態と受動態の意味上の違いをChatGPTに尋ねてみます。

a. This blade anneals well. (中間態)

b. This blade is well annealed. (受動態)

 

a. This blade anneals well.

意味:この刃物は焼きなましやすい。

ニュアンス:この文は、刃物が焼きなましのプロセスによく適していること、つまり

  焼きなましの操作が容易で効果的であることを強調しています。

文脈:この刃物が加工される過程で、焼きなましのプロセスに適していることを述べ

  る際に使われます。

用例:We chose this type of steel because it anneals well, making it

   easier to work with.

和訳:この種類の鋼を選んだのは、焼きなましやすく、加工が容易だからです。

 

b.This blade is well annealed.

意味:この刃物はよく焼きなまされている。

ニュアンス:この文は、刃物がすでに適切に焼きなましのプロセスを経ていることを

  強調しています。つまり、焼きなましが成功しており、刃物がその結果として適切な

  状態になっていることを意味します。

文脈:この刃物が既に完成されており、焼きなましの結果が優れていることを述べる

  際に使われます。

用例:After the manufacturing process, this blade is well annealed and

   ready for use."

和訳:製造過程の後、この刃物はよく焼きなまされており、使用の準備ができていま

  す。

 ――ChatGPT

 

 同じthis baldeという主語であっても、(a)中間構文では「この種の刃物」という総称を含意し、(b)受動構文では「この刃物」という個別のものを指します。この結果は、中間構文(中間態)は一般的な性質を述べる文脈に適し、受動態は個別の性質を述べる文脈に適していることを支持しています。

 

 どのような動詞で、どんな語句と共起するかは近年の論文では数多くとりあげられています。中間構文はまだこれから研究が進んでいくものだと考えられます。今後注意して用例を収集して分析していきたいと思っています。

 

 英語の文法的特徴は、配列によって語句の文法性を示すことです。他動詞の能動文SVOの目的語にあたる語Oを主語Sの位置に置くからといって機械的に受動態にするわけではありません。英語は配列を変えるだけで、形態は能動態のままでも受動的な意味に解釈できることが多々あるのです。

 中間態と受動態は一般的な性質/個別の性質という意味による選択によります。能動・受動・中間という3つの態として体系的に理解すると、機械的な規則で過剰受動化してしまうリスクは減るでしょう。伝えたいことを適切に表現するための文法では、選択肢を示すことが大切になります。

 

 改めて、冒頭で述べた次の問いを考えてみましょう。

「They move the sone easily.という文を、the stoneを主語にして書き換えて」

 

意味の上の違いは別にして、形態上の選択肢は1つではありません。

受動態を使うと、a. The stone is moved easily.となります。

中間態を使うと、b. The stone moves easily.となります。

 

(a)is movedは、機能語isと屈折-edを組み合わせて受動という意味を生成しています。つまり文法手段で言うと、語の配列以外に機能語と屈折を使っています。

(b)は元はOの位置にあった語を主語に移動しただけです。つまり文法手段は配列です。

 現代英語の本来の文法的仕組みは、屈折を失った代わりに、機能語と内容語を配列して文法性を表すということにあります。優先順位をつければ、配列>機能語>屈折ということになります。

 このように考えると、配列を変えるだけで、受動的意味を帯びる中間態は現代英語の文法的仕組みの基本に基づいていることが分かります。屈折は二の次で、語の配列を駆使して言葉を操るというのは、英語ネイティブの文法感覚の根本にあると考えられます。

 

 近代的な中間構文の出現は15世紀頃だとする研究結果があります。その時期は、屈折を失い語順によって文法性を示すModern Englishの成立時期とされる1500年頃と同時期にあたります。中間構文は語の配列は能動文のままで主語に無生物を置くというのが典型的な形式です。形態として[be+-ed]の型ではなくても、配列の特徴によって受動的意味を発生させるということです。

 中間態は特殊な文ではなく、語の配列によって様々な意味を生成するという現代英語の文法的仕組みの特徴を示す典型的な文です。能動態・受動態・中間態を体系的につかむことは英文法の基本です。英語ネイティブの文法感覚をつかむためにも、学習文法に積極的に取り入れるべき文法事項ではないかと思います。