homeworkは純粋な不可算名詞と言われてきました。予備校の講師 霜 康司によると、大学入試の10年間の不可算名詞に関する問題157問で出題された語の頻度を次のように示しています。調査時期は不明ですがどれも定番といえる頻出語です。「information(22%)、furniture(20%)、money(18%)、advice(13%)、news(6.5%)、homework(4%)で、この6語で83%を占める。」

 

  現行英文法は刹那の規則を提示します。しかし、言葉はその言語のネイティブスピーカーが幼少期に行う再解釈reanalysisや社会変化にあわせて変化します。これまでの扱いと近年の動向を見ておきましょう。

 

1) You could tell that she’d really done her homework.

――LDCE1995

 

2) Have you done your homework, Gemma?

ーーCED1995

 

  上記の主点Longman、Cobuildはいずれも英英辞典です。どちらもhomeworkは不可算uncountableとしています。学校の宿題などに使われていてher、yourと言った所有格の代名詞と共起した用例になっています。

 

  アニメの用例を紹介します。

 

3) I have too much homework.

――The Berenstain Bears | The Homework Hassle

 

4) Worst thing you can do with homework is put it off until later.

――The Berenstain Bears | The Homework Hassle

 

5) Sis“What are tax forms?”

  Papa“It’s sort of like homework for grown-ups.”

――The Berenstain Bears | The Homework Hassle

 

 用例3では不可算の名詞を修飾するmuchを使用して too much homeworkとなっています。また用例3は「宿題の対処で最悪なことは後回しにすること」という一般的なことを述べていて、homeworkはゼロ(φ)冠詞です。用例5では「tax forms(税務申告書)とは何か」と尋ねられて「大人にとっての宿題のようなものだよ」と答えていますが、やはり一般的なことを述べていて、homeworkはゼロ(φ)冠詞です。

 

 以上のようにhomeworkいずれも抽象的な概念として不可算扱いされています。これがこれまでの一般的な扱いです。

 

 web上にあるStokExchage『Is "homework" countable?』2021にあるやり取りを翻訳して紹介します。

【回答者1】

「homeworksという言葉は見たことがあるけど、正しい表現であるとするものは見たことがない。いずれにせよ、複数の宿題(課題)を指すためにhomework assignmentsという用語を使うことができる。これは、少なくともアメリカ英語ではかなり一般的な用語だ。」

【回答者2】

「アメリカ英語では、あなたが言う意味ではassignmentsが使われる。イギリス英語では、homeworksは少なくともわずかに受け入れられている。 私が通った学校の少なくとも一度は使われていたが、最初は不自然で俗語的に感じたことを覚えている。」

【回答者3】

伝統的には、それは数えられないものであり、ほとんどの辞書がそのように記述している。

ただし、Merriam-Websterの類語辞典(Merriam-Webster辞書ではない)には、homeworksの項目がある。少なくともいくつかの教養のあるネイティブスピーカーのグループが複数形を使用している。自分が発信する対象の人たちがhomeworksを使用する傾向のあるグループに属していれば使えばいい。そうでないならhomework assignmentsなどに言い換えるといい。」

 

 現状ではhomeworkは不可算扱いが基本で、一部にはhomeworksを使う人たちがいること、また同じ意味でassignmentsまたはhomework assignmensと言う代替表現もあることが分かります。

Merriam-Webster類語辞典には「homeworks noun  plural of homework」との記述があることが紹介されています。

 このサイトでは、「アメリカの言語学、物理学、数学の教授は、少なくとも頻繁にhomeworksという言葉を使う」として各分野から5例ずつ計15用例を挙げています。各分野2例ずつ紹介しておきます。

 

6) Final grades will be calculated as follows: 30% for homeworks, 20%

  for the midterm, …

 ――言語学入門(シラバス)、2011年

 (最終成績は次のように計算される:宿題の30%、期中試験の20%、…)

 

7) Late assignments are not accepted, but your two lowest-scoring

  homeworks will be dropped.

 ――言語学理論入門(シラバス)、2018年

 (遅れた課題は受け付けられないが、点数の低い宿題2つは除外する)

 

8) Homeworks are like sports practice

 ――Tom Moore 『テンソルを使った一般相対性理論の教え方』2006

 (宿題はスポーツの練習と同じようなもの)

 

9) These concepts can be introduced to students through labs,  

 homeworks, and discussion questions.

 ――Brianna Billingsley,Cory Christenson『入門物理学カリキュラムへの西洋以外

 の貢献』2019

 (これらの概念は、実験、課題、および討論を通じて学生たちに紹介することができ

 る)

 

10) There will be two midterm exams, weekly homeworks, and a final

  exam.

 ――優等微積分1(シラバス)2012年

 (2つの中間試験、週次の宿題、および最終試験がある)

 

11) All homeworks, except the first one, are due on Thursday at 3:30pm.

 ――「コンピュータサイエンスのための離散数学」2005

(最初のもの以外のすべての宿題は木曜日の午後3時30分までに提出する)

 

この他「比較文学、哲学、コンピューターサイエンス、化学、社会学の教授たちも同様の使い方」をしている例があり、「用例を見つけることは難しい事ではない」と記しています。シラバスではふつうにhomeworksという複数形を使うことが分かります。

 

 現状では、単数a homeworkの使用は正式に認めらてはいません。しかし、近年ではinformalな表現としては使用されているようになってきています。

 

 このグラフでは、『Merriam-Websterの類語辞典』が認めている複数形として使用するhomeworksよりも単数のa homeworkの方がずっと使用頻度が高くなっていることを示しています。

 学習者としては、基本的にはこれまでの不可算扱いにしておく方が無難ではあるでしょう。受験英語は情報感度が低いので数十年遅れで英語使用国の扱いに追随するのはよくあることと割り切っておくことです。

 ただし、実用的な英語に接していくときには、近年では個別のhomeworkは単数で扱われる傾向があるということは知っておくといいと思います。英語話者が可算扱いしていることについて文法的正誤を過度に気にするのは無駄ですから。言葉は変化するもの、最近では可算扱いする人が増えてきたんだなと受け止めておけばいいということです。

 

 今世紀入り、情報技術や通信技術が進歩し、あらゆる場所や時間において情報が常に利用可能なユビキタス社会と言える状況になりました。常に生きて使かわれる言葉に接して、絶えず情報更新していくことが必要になります。ユビキタス社会は紙媒体だけに頼らなくとも新情報を得ることを可能にしたわけです。

 刹那の規則を丸暗記したところで早晩陳腐化していきます。言葉を使う上で大切なのは、硬直化した規則に従うことではなく正しく伝えることです。文法的な正誤は、言語話者の社会的なコードになっているかどうかです。それはネイティブスピーカーの再分析reanalysisによる揺らぎを含み、価値観の変化などに応じて変わっていきます。言葉は変わるものですが、生きた言葉から学ぶということはいつの時代でも変わらないでしょう。

 

【補足】

コメント欄にある読者の方のご指摘の通りChatGPTの上の例文の冠詞aはassignmentにかかるものでhomeworkは形容詞と解します。この点を考慮すると、実際にhomeworkを可算として使う例はずっと少ないということになります。

 

 グラフにあるa homeworkにはa homework assignmentのように実際には形容詞として使用されているものが含まれます。コロケーションとしてはassignmentが多数を占めるようですが他にもa homework taskなどの例もあることを考慮すると

a homeworkという可算名詞としての用法はずっと少ないことになります。全く使用されないわけではないですが、現代時点では到底正用とされるには至っていないことは確かです。

 

 実をいうと、この記事とは別にworkという語についての取材を進めていました。workのコアの1つには「決まった動きをする」というような意味合いがあり「(人が)仕事に従事する」「(もの)が正常に機能する」などの動詞として使用されます。名詞として使う場合は抽象的な「決まった動きをすること」つまり「勤務」「作業」などの意味でゼロ冠詞の(φ)workになります。

 一方で著作物や絵画なのどの芸術作品はworksのように可算扱いされます。作業の結果生み出された具体的なものは機能語-sで可算化されるということです。今回の記事は、そのことから類推してhomeworkも課題の結果として具体性を持てばhomeworksもあり得るのではないかと仮説を立てて取材したものです。だから、大学のシラバスのように結果としての提出物は具体的にイメージできる形があるのでhomeworksと表現される場合があることが納得できたわけです。

 

 生きた言葉には、論理的には十分あり得ても言語話者の間で社会的にコードされていないことも多々あります。公的な場では使用を避けるというのが妥当だと思います。しかし英語話者の一部の間であっても、実際に使用されている表現にはネイティブが持つ言語感覚が息づいているのだと考えています。

 

 ここでの基本的な考え方は、信頼性のある辞書や文法書であっても、情報ソースの1つであり批判的検証の対象です。今後も辞書や文法書に載っていない表現でも、取材対象にして誤りを恐れずに記事にしていくつもりです。その場合に大切なのは事実に基づいた論理的な記述です。そこは妥協してはいけないと思っています。というか、ほんとのところはそうしないと気が済まない性分なのです。

 もちろん自分自身の記事も読者の方にとっての情報ソースの1つです。このブログ記事は第3者のチェックは全く受けずに書いているので、単純な変換ミスなどは多々ありますが、外にも肝心な記述についてこれからもきっと多くのミスをすると思います。誰かと討論したものでもないので、自分の狭い視野から抜け出せない思い込みの内容も数多く含まれているでしょう。

 今回はあえて自戒を込めてリライトするまでは見落とした元記事を残したままして、このように補足の形で訂正しておくことにしました。

 

 所詮、たいして力のない個人が自由な発想をもとに書いた記事です。拙いところは賢明な読者の方に甘えて今後も疑問に感じたことを心の赴くままに取材し、粗削りのものであっても記事にしていこうと思います。できることなら批判的検証の対象の1つに加えていただけるような内容になり、新たな気付きのきっかけにしていただければ嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 可算・不可算などの区別が陳腐化することについての検証・考察は、下の記事にまとめています。

冠詞a再考―状態動詞、不可算名詞という分類の陳腐化ー | しんじさんの【英文法を科学する】脱ラテン化した本来の英文法はシンプルで美しい! (ameblo.jp)